今月は選択盲の実験に関する話から。
早速ですが、まず、被験者に2枚の顔写真を見せ、数秒以内に、どちらの顔が好みかを判断してもらいます。その後、写真を裏返して、選んだ方を被験者に渡し、なぜ、そちらを選んだのかを説明してもらいますが、この時、被験者は手渡された写真を表にして、写真の顔を見ながら理由を述べます。
この実験では、数回ごとにトリックが仕掛けられます。被験者に見せた写真の裏には別の写真が隠されていて、例えば、Aの写真を選んだのであれば、被験者に渡されるのはBの写真、Bの写真を選んだのであれば、渡されるのはAの写真というように、自分が選んだ写真とは逆の写真を渡されるのです。
この場合、被験者は、それが間違いであることに気が付くのでしょうか?
もちろん、気が付く人もいたようですが、それは全体の20~30%と言われていて、70~80%は間違いに気が付きません。そればかりではなく、自分が、その写真を(本当は選ばなかったのに)選んだ理由について、あたかも本当に選んだかのように説明を始めます。
さらに、そこで述べた理由に含まれる特性が、トリックがなかった、つまり、Aの写真を選んだのであれば、Aの写真を渡され、Bの写真を選んだのであれば、Bの写真を渡されるというような、正しい写真を渡される場合と一致していたのです。その判断基準が、本当に確固たるものであれば、選ばれなかった写真は、それと照らして劣っていたはずなのに。
この話を、ダニエル・カーネマンの「システム1」と「システム2」に当てはめれば、両者に関わる脳の働きが、実は、あまり関連していないことを示しているのかも知れません。ここから、例えば、「システム1」に関わる「バイアスのある信念」に対して、システム2に関わる「規範的・合理的説明」を与えて説得しようと試みても、もともと異なる脳の働きに訴えかけている以上、お互いが歩み寄ることは極めて難しいと言うことも出来るでしょう。
これは、寄り添い、共感、文脈依存型の指導(を求めるクライアント)と、論理や確率を重視した、規範的合理性に基づく指導(を求めるクライアント)という分類にも繋がりそうですし、あるいは、脳波との関連について検討するのも面白そうな気がします。