2024年10月

プロ野球パシフィックリーグの福岡ソフトバンクホークスが、4年ぶりにリーグ優勝しました。

福岡ソフトバンクホークスといえば、今シーズンから小久保裕紀監督、倉野信次投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)の体制に変わり、1年目での優勝という素晴らしい成績でした。御二方ともMWT協会の初代会長である志賀一雅が、現役選手の時代からメンタルトレーナーとして関わらせていただいたという意味でも嬉しい結果です(※)。

(※)倉野コーチはMWT協会の顧問でもあります。

また、4軍の川越英隆投手コーチ(チーフ)とは、昨年インタビュー動画を収録させていただきました。

川越コーチへのインタビュー動画「ウェルネストレーニングトークvol.1」

それにしても、今年も大谷翔平選手(ロサンゼルスドジャース)の活躍はすごすぎましたね。打撃に専念した影響はあるとしても、常識とか何とか、そんなものは単なる思い込みにすぎないのだなと。野球に関心がなかったはずの友人が、会えば大谷選手の話をするようになりましたし、人々の行動を変えたところは、まさにイノベーターの本領発揮でした。

大谷選手のプレーを目の当たりにした若い世代から、どのような“非常識”プレイヤーが出て来るのか、本当に楽しみです。

最近の日本ボクシング界も、強い選手がたくさん出て来て、とても盛り上がっています。世界に目を向けても、日本の勢いは特筆もので、軽量級の中心地は日本にあると言っても過言ではありません。

この流れを作り出したのは、やはり井上尚弥選手でしょう。野球などの競技と同じように、幼い頃から英才教育を受けて来た世代が、切磋琢磨しながら全盛期を迎える年齢に達したこともあるとは思います。でも、それに加えて(orそれ以上に)、日本人も世界のトップオブトップで戦えるのだという意識の変化が大きく影響しているのではないでしょうか。

MWT協会のYouTubeチャンネルに、元OPBF東洋太平洋ライトフライ級チャンピオンで、世界タイトル挑戦経験もある升田貴久さんへのインタビュー動画を追加しました。「ウェルネストレーニングトークvol.3」として公開中ですので、ぜひアクセスしてみてください。

2024年9月

このエッセイでも、たびたび取り上げてきたMWT(Mental Wellness Training:メンタルウェルネストレーニング)ですが、現在の名称に変わる前はSRP(Self-Regulation Program:自己恒常性開発プログラム)」と呼ばれていました。どちらにしても、脳波の研究にもとづくメソッドという点に特徴がありますが、どうも、この「脳波」という言葉に少しハードルの高さを感じてしまう方がいらっしゃるようです。

MWT協会では、MWT指導者資格認定講座(2級→1級→インストラクター)というタイトルで、指導者を育成するための講座を開催していますが、それらの講座内で受講者の脳波を測ります。目的としては、どれくらいうまくトレーニング出来ているか、どういう脳の使い方をしているかなどを把握するためです。

MWTとは、脳の使い方を身に付けることでメンタルに影響を与える、いわば「脳育」トレーニングですから、脳の状態を可視化できれば、トレーニングの効果を確認しやすくなります。したがって、MWT講座における脳波測定とは、脳の使い方の特徴を知り、それを踏まえて(必要であれば)トレーニングの方向性を決めるために利用するくらいのものです(脳波について、しっかり勉強したい方にはニューロフィードバック指導者資格認定講座があります)。

「脳波」と聞くと、メンタルトレーニング(だけ)を学びたいに人には、やや大層すぎるものに感じられるかも知れません。でも、実際に脳波を測ることで、自分の感覚と脳の状態が一致しない(例:リラックスしていたつもりが、脳波的にはそうとも言えない)とか、雑念だらけの状態が如実に反映されるとか、想定外の結果に盛り上がることも多くあります。

もちろん、脳波を測定すれば、自分も他者も納得しやすくなり、説得力が生まれやすくなるところも利点の一つとは言えるでしょう。しかし、それらを抜きにしても、脳波はシンプルに面白く興味深いものであり、それでいてメンタルとも強く関わりがあるものですので、あまり難しく考えず、参考になることがあれば役立てようくらいの心持ちでいれば十分だと思います。

メンタルウェルネストレーニング指導者資格認定講座

ニューロフィードバック(脳波)指導者資格認定講座

2024年8月

「割れ窓理論(Broken Windows Theory)」は、ご存じの方も多いでしょう。検索すれば、いくらでも解説が出てきますが、今では、再現性がない理論の1つとも指摘される一方、秩序を維持するために、軽微な犯罪を取り締まろうとする意図については意義があると思います。言うまでもなく、社会的コストとのバランスを考慮した上で。

しかし、だからと言って、軽度な違反に厳罰を科すのは、逆効果になるかも知れないというのが今回の主題です。

改正道路交通法の施行(2023年4月1日)により、自転車利用者のヘルメット着用が努力義務化されました。ただし、“努力”義務ですから、違反をしても具体的な罰則はなく、むしろ、交通事故に遭遇した場合の過失割合とか、保険の補償対象外になる危険性の方が、大きな問題なのだろうと思います(要するに、運転者の安心・安全のため)。

ここで、仮に、ヘルメット未着用に対する罰則を極めて重くすると何が起こり得るでしょう。

急いでいる時など、ついうっかりヘルメットをかぶり忘れて自転車に乗り、それを誰かに見られたとします。その時、犯人は、目撃者に危害を加えて口封じしようとしたり、危険を犯して逃げようとしたり、もしくは、目撃者による犯人への恐喝や脅迫を誘発することもあるかも知れません。つまり、より大きな犯罪を発生させる恐れがあるということです。

話は逸れますが、近年よく見かけるようになった電動キックボードも、使用時のヘルメット着用は努力義務だそうです(かぶっている人を見たことはありませんが…)。どちらかと言うと、こちらの方が危険なのでは?と思う時もありますが、自転車と比べてシェアリングサービスの利用率が高い=ビジネスが先行しているので、商売の妨げになりそうなヘルメット着用の義務化は、おそらく進まないでしょうね。

もう少し日常的なところですと、他者の行動の中に、自分の意に沿わない(でも、本人はやりたい)ものがある時、それを厳しく禁じてしまうと、その行動が表から見えなくなり(地下に潜り)、気が付かないうちに事態を悪化させる可能性が高まります。このような場合は、監視下に置きつつ、逸脱の程度を把握しながら適度な罰(注意)を与える方が、秩序を保つ上では有効ということも考えられるのです。

まとめると、量刑は段階的でなければならない、違反と罰則のバランスが重要という話でした。

2024年7月

先日、高校生から「脳波測定を体験したい」という問い合わせがありました。中学生や高校生からの問い合わせは、これまでも2年に1回くらいありましたが、脳波はマイナーな分野ですから、そう多くはないですね。

貴重な機会ですから、どうして体験したいと思ったのかを尋ねたところ、授業の課題で睡眠について調べていたら「α(アルファ)波」に興味がわいてきたとのことでした。何はともあれ、若い人に興味を持ってもらえるのは嬉しいことですし、出来る限り協力したいなとは思っています。

脳波の講座などでも説明していることですが、医学分野の脳波と工学分野の脳波では、測定の目的も解釈も異なるところがあります。アルファテックシリーズの最新機器であるアルファテック7は工学分野の脳波測定機で、脳力開発(能力開発)に適したニューロフィードバック装置として進化してきました。そのため、α波をスロー・ミッド・ファストの3種類に分けるなど、独自の視点を取り入れながら計測を積み重ねてきたわけです。

脳波測定の特性としてリアルタイム性が挙げられるため、マインドフルネス瞑想を始めとした課題遂行時の脳波を測定して、その変化を確認しながら即時対応でトレーニングに活かすのも有効な使い方の1つだと思います。これが、いわゆるニューロフィードバックトレーニングです。そう考えると、睡眠中の脳波を測定する場合でも、単に睡眠の質を評価するより、何らかの課題を実行して、その影響を確認するのも有意義な計測と言えるはずです。

さて、睡眠に関する著書として「脳は眠りで大進化する」(著者・上田泰己) が出版されました。上田先生は、20年ほど前の時点で、既に世界的にも注目される研究者でしたが、なるべく多くの時間を研究に使うためなのでしょう。この本が、ようやく初めての単著(語り下ろし)です。

脳波の話もところどころに書かれていますし、「脳は第二の心臓」という内容を含めた睡眠覚醒研究の今後の見通しについても語られています。そして、新書とはいえ手加減していない(中途半端に内容を易しくしていない)ところは、こだわりの1つなのかなと思いました。睡眠に関心がある方は、特に興味深く読むことが出来ると思います。

2024年6月

今年に入って4~5年ぶりにスマホを買い替えました。機種にもメーカーにも、ほとんどこだわりがなく、主な使用目的が情報検索で、あとは、仕事で使用する最低限のアプリをインストールしているだけですから、今回の買い替え(通算3台目)も、バッテリーの減り方が尋常ではなく早くなったなどの不具合が主な理由でした。

買い替えにあたって、古い機種から新しい機種にデータを移行しようとしたところ、メモリ容量の制限近くまで使用しているとのことで、完了までに6時間くらいかかるであろうと。原因を確認してみると―何のひねりもなく恐縮ですが―写真(と動画)でした。

プライベートでは写真を撮る習慣がなく、見返すこともあまりないため意識していませんでしたが、何やかんやで仕事中に撮り溜めていた写真が膨大にあり、クラウドでの保存量も有料版にするかどうかの一歩手前。さすがに、これは自分で整理するしかありませんから、コツコツと消去したり保管場所を変えたり、その一部を公開しているのが私のInstagramアカウントというわけです。

さて、写真だけでも相当なデータ量になるということは、人の脳の記憶容量は一体どれくらいなのだろうと思い調べてみたところ、TB(テラバイト:ギガバイトの1,000倍)とかPB(ペタバイト:テラバイトの1,000倍)などの記述が見つかりました。ただし、はっきりとした数値は(あるのかどうかも含めて)分からずじまいです。

人の記憶の特徴が「曖昧性」にあることは、ご存じの方も多いでしょう。したがって、記憶は、写真のように固定されたものではなく、思い出すたびに不安定化するものであり、ゆえに、時間が経つにつれて記憶の内容や意味も変化します。また、記憶の再生は無意識でも起こるため、多くの記憶(経験)を持ち、それらが自動的かつ自由に結び付きやすい脳の使い方をしている人ほど、ふとした瞬間のひらめきや直感、創造力も発揮しやすくなるようです。

一方で、記憶を組み合わせるだけの創造(想像)なら、人よりも処理能力が高いAIに分があるとも言えます。現に、囲碁や将棋の棋士は、もうAIに敵わなくっているようですしね。しかし、少なくとも現在のAIには欲求がありません。その理由の一つとして身体(性)の欠如を挙げることができますが、それに対して、人には身体があり、身体に基づく欲求があります。そこから、身体(性)が再評価されている昨今です。

創造性を高めるための、もう一つの効果的な方法は、出合いの場を作ること。それは、モノでもコトでも、もちろん人でも構いませんが、特に、新しい経験や、自分とは異なる思考パターンを持つ人との出会いが重要でしょう。そう考えれば、ストレスを感じる状況でさえ、新しい発想を生み出すための有効な機会と捉えることができるはずです。

2024年5月

小~中学生の頃、料理漫画をよく読んでいました。私の世代だと、美味しんぼ、ミスター味っ子、クッキングパパあたりです。興味を持ったきっかけは、もう忘れてしまいましたが、食に対する私自身の興味の薄さを考えると、創作することの面白味みたいなものを感じていたのかも知れません。ジャンルや内容を問わず、創作に集中する時間は、今でも私のフローな一時ですので。

その影響もあるのだろうと思いますが、料理人になるのもいいかなと、ぼんやり考えていた時期もありました。今では必要最小限の料理しか作りませんが、小さい頃から、料理に対する何となくの勘は働いていたような気がします。もちろん、家庭料理レベルの話ですが、生身の人間から料理を教わった経験が全くないことを考えると、その「勘」は、まず間違いなく漫画の影響のはずです。

一般論としての漫画の効果は色々あると思いますが、スポーツとか芸術とか、あるいは、娯楽や趣味に関することとか、特定の分野のヒット作が生まれると、そのことを始める子供が増えるというのは、すぐに思い付くことの1つでしょう。それに加えて、そういう子供が(ヒット作が登場する以前の子供と比べると)驚異的なスピードで上達するというのも、よく指摘されることです。

漫画の中では、主人公を始めとした登場人物が、尋常ならざる技術や能力を発揮することがよくありますよね。それを、経験に基づく常識を身に付けた大人が読めば、あくまでも非日常の作り話として受け止めることが多いのではないかと思います。一方の子供は、それが現実的かどうかよりも、自分も同じことをしてみたい、同じようになりたいという純粋な欲求として発露させることが多いのではないでしょうか。

つまり、漫画というイメージによる可能性の拡張が、子供の非常識的な上達スピードに影響を与えるのではないかという話ですが…。言うまでもなく、こんな御託を並べるところが、いかにも大人の発想ですよね。 このエッセイでも以前に取り上げた、大谷翔平選手とか井上尚弥選手とか、それ以外の私が知らない分野にも、漫画を超えるほどのスーパースターがいらっしゃるはずです。常識というのは過去の評価にすぎないわけですから、常識的ではないことを理由として可能性を否定するのではなく、むしろ、新しい可能性を支持することが(少なくとも受け入れることが)大人の役割でもあると思います。

2024年3月

現代は外的な刺激に満ちた時代である―これは誰もが日々実感していることだと思います。その象徴的な存在がスマホで、おかげで現代人の集中力が落ちたと言われたりもしますが、それを支持する報告として一時期もて囃されたのが、マイクロソフト・カナダの研究チームによる2015年の発表でしょう。

「現代人の集中力は8秒しか続かず、これは金魚の9秒を下回る。」

おそらく聞いたことがある人も多いと思いますが、2000年の段階では「人間の集中力は12秒持続する」と言われていたので、この短期間で4秒も縮まった等々とにかく色々と話題になりました。

その後、この研究はマイクロソフトが実施したものではないとか、金魚の集中時間を裏づける情報源がないとか、信憑性を疑わせる指摘が続出し、今では「金魚神話」と呼ばれています。どうやらマーケティング目的で作られた数字のようですが、これだけ世間に広まれば、その目的は達せられたと言えるのかも知れません。

とはいえ、現代が集中しにくい環境にある、現代人の集中を持続する力が落ちた(むしろ不要になった?)というのは、やはり事実であろうと思います。

為末大さんと今井むつみさんによる著書『ことば、身体、学び「できるようになる」とはどういうことか』(扶桑社)を読んでいると、次のようなことが書かれていました。

為末大さん

「競技で役に立つ技術は大体単純な動きです。あまり変化のない単純な動きの繰り返しに対して、意識をそらさないようにし続ける力を鍛えておくことが大切です。」

「外部の刺激によって集中することを覚えてしまうと、外部からの派手な刺激がなければ、集中ができなくなります。自ら壁のなにげない一点を見つめるようなことがある程度できないと、筋肉の一部位に意識をむけて継続することはできません。」

今井むつみさん

「気になるのは、教科書が色つきになり、ビジュアル的にとてもきれいになって、この先はデジタル教科書なども出てきて、どんどんわかりやすくなっていくことでしょうか。わかりやすくすると、その分、自分で考えなくても見ればわかるようになってしまいます。」

「そうやって学んだものは、応用も利かなくなります。少し場面が変わると使えなくなるという落とし穴があるので、何でもわかりやすくすればいいわけではありません。」  同書の中でも語られていますが、外的刺激によって学ばされているような環境では、本当の意味で学ぶことができず、結局、自ら集中して、自ら得たものしか、身に付くことはないのだと言えそうです。

2024年2月

ご覧になった方も多いと思いますが(思いたいですが)、川越英隆さんとの対談動画を、MWT協会のYouTubeチャンネルにアップしました(全10回)。

川越さんは、プロ野球のオリックスバッファローズなどで投手として活躍された方で、引退後は、千葉ロッテマリーンズで投手コーチを務めていました。2022年の退団後、2023年~株式会社tsuzuki BASEさんが運営する野球スクール「Glowing Academy」で指導をしながら、「ウェルネストレーニング教室・横浜鶴見校」の開校に向けて準備を進めていたところ、2024年~福岡ソフトバンクホークスの4軍ピッチングコーチへの就任が決まりました(教室の開校は延期)。

2024年の福岡ソフトバンクホークスと言えば、協会の相談役・志賀一雅がメンタルトレーニングを担当してきた小久保裕紀さんが1軍の監督に就任され、更に、協会の顧問である倉野信次さんが投手コーチ兼ヘッドコーディネーターに就任されるなど、これはもう、会社としても応援するしかない状況です。

対談を収録したのは、コーチ就任が決まる前の2023年7月23日。横浜にある「Glowing Academy」の施設を訪問しましたが、私も中学・高校と野球部に所属していたため、自分の学生時代を思い出しながら、練習環境の変化を実感した次第です(詳しくは動画にて)。

また、対談の中でも話したことですが、現在は、あらゆる分野においてプロとアマチュアの情報格差がほぼなく、環境面でも情報面でも、すべての人に十分すぎるものが与えられている状況です。そのような中で独自性を発揮するのは難しいことだと思いますが、それに対する一つの回答として、複数分野の掛け合わせが考えられます。

この場合の分野は、ある程度レアなものが条件ですが、例えば、500人に1人(0.2%:東京都の小学校に1人くらい)だとレア度が高くなくても、そのような分野を2つ掛け合わせると2,500人に1人(0.04%=0.2%×0.2%)、3つ掛け合わせると12,500人に1人(0.008%=0.2%×0.2%×0.2%)になります。もちろん、分野そのものがレアでなくても、自分がレアになる=複数の分野で上位500人に入ることでも同じ確率を達成できます。

いずれにしても、ちょっと手を出しては止めるようなことを繰り返していると、何も身に付かない(レアになれない)ばかりか、有用な経験も得にくいでしょうから、まずは、じっくりと取り組める何かを見つけるのがよろしいのではないかという話でした。

2024年1月

明けましておめでとうございます。

2024年は、年明けから大きな災害や事故が続いているため、被害に遭われた方々へお見舞いを申し上げるとともに、これ以上は被害が拡大しないことと、1日も早い復旧を祈るばかりです。

このエッセイでは、今年も脳波とメンタルトレーニングを主に話題を提供して参ります。

脳波の観点から整理すると、メンタルトレーニングとは、10Hzを含めたミッドアルファ波の状態を作るメソッドと言うことが出来ます。もちろん、脳波はアナログの生体信号であるため、ミッドアルファ波が強くなれば、その周辺の周波数(アルファ波全体)も強くなりますが、あくまでも中心はミッドアルファ波にあるということです。よって、メンタルトレーニングは、「実力発揮」と「(自己暗示を伴う)イメージトレーニング」に有効と考えることが出来ます(この辺りの詳細は、メンタルウェルネストレーニング指導者資格認定講座の中で説明しています)。

一方、よくご質問をいただく7.8Hzを強める方法ですが、メンタルトレーニング単独では難しいだろうというのが個人的な見解です。また、7.8Hzを強めたいという意識が、むしろ7.8Hzへの変化を阻害するように思います。

では、何をすれば良いのか?

あくまでも私見として、その答えの一つは「瞑想」だと思います。

メンタルウェルネストレーニングの1級講座でも少し取り上げる内容ですが、瞑想の調心(心を整える)を通じて、智慧が湧くようになります。ここでの智慧とは、例えば、大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智の4つのことです。

大円鏡智:心は鏡のようなものであり、雑念、妄想、感情のような塵や埃を払えば、鏡=心がきれいになり、すべてのものを「ありのまま」捉えられるようになる。

平等性智:そうすると、物事を自分に都合よく見るのではなく、平等に見ることが出来るようになる。

妙観察智:そして、物事を精妙に観察できるようになる。

成所作智:その結果、為すべきことを成し遂げるための知恵が生まれる。

ここまでが、集中瞑想→観察瞑想(10Hz)。

また、智慧は、慈悲の心として具現化されると言われ、それが4つの慈悲の心=四無量心です。

慈:他者に対する思いやりの心。

悲:他者の悲しみや苦しみを感じ、取り除いてあげたいと思う心。

喜:他者の喜びを、ともに喜ぶ心。

捨:何事にも偏らず、平等・平静である心。

これが、慈悲と慈愛の瞑想(10Hz→7.8Hz)。MWT的には「よかった、ありがとう」ですね。

自己を管理する限りは10Hz(ミッドアルファ波)であり、それは決して悪いことではありませんが、仮に7.8Hzを目指すのであれば(“目指す”というのも矛盾を含む表現ですが)、その執着から離れる必要があるでしょう。

2024年1月~(株)脳力開発研究所の本社が、東京・目白に移転しました。JR山手線の目白駅から徒歩10分ほどの場所です。近くに来られた際は、ぜひお立ち寄りください。

本年もよろしくお願い申し上げます。

2023年12月

2023年も、多くの方が脳波測定の体験にお越しくださいました。グループ企業である(株)脳力開発研究所が開発・販売しているアルファテック7を使い、およそ1時間の中で、説明や質疑応答などをおこないます。ご興味がある方は↓よりお申し込みください。

https://nouhasokutei.jp/taiken.html

これまで、このエッセイの中でも、脳波を測ると分かることについて色々と紹介して来ましたが、ある分野のエキスパートと初心者(非エキスパート)では脳の使い方が異なるというのも、そのうちの一つです。例えば、同じ作業をしていても、エキスパートの方が圧倒的に速いというようなことは、皆様にも経験があると思います。では、圧倒的に速い=それだけ脳も激しく活動していると言えるのでしょうか?

エキスパートと初心者が同じことをしていて、ある程度の時間が経過した後、疲労を感じやすいのは、どちらでしょう?おそらく、初心者ではないでしょうか?疲労を感じやすいのは、脳波の周波数も電圧も高く、基本的には脳が激しく活動している時です。そして、ここには「意識的」な情報処理が関わると考えられています。

エキスパートと初心者では、同じ作業をするにしても、意識で処理する情報量が圧倒的に異なります。「意識下」で処理するエキスパート(豊富な経験に基づく長期記憶があるため)と、「意識」で処理する初心者(経験に基づく長期記憶がないため)の違いですが、当然のこととして、意識で処理する情報量が増えるほど多くのエネルギーを使うことになり、結果として、周波数も電圧も上がりやすく、疲労も感じやすくなります(スピードも落ちます)。

このような結果を示す事例は数多く存在しますが、私が計測したものの一つは、演奏時における、プロのミュージシャンと、その生徒の違いでした。プロの方は、ミッドアルファ波を中心に電圧は低め、つまり静かな状態でしたが、生徒は、ミッドアルファ波にファストアルファ波とベータ波が混ざる状態で電圧も高め、いかにも一生懸命演奏している状態を表していました。言うまでもなく、演奏そのものはプロの方が心地よかったわけですが。

これは、演奏に限らず、あらゆる作業に当てはまることであり、本番で能力を存分に発揮できない方は、このあたりの脳の使い方に課題があるのかも知れません。したがって、技術的な練習はもちろんのこと、その成果を最大限に発揮したいのであれば、脳波を指標に脳の使い方を練習することも対策の一つだと思います。そして、そのための方法を体系的に学べるプログラムが「メンタルウェルネストレーニング」です。