現代は外的な刺激に満ちた時代である―これは誰もが日々実感していることだと思います。その象徴的な存在がスマホで、おかげで現代人の集中力が落ちたと言われたりもしますが、それを支持する報告として一時期もて囃されたのが、マイクロソフト・カナダの研究チームによる2015年の発表でしょう。

「現代人の集中力は8秒しか続かず、これは金魚の9秒を下回る。」

おそらく聞いたことがある人も多いと思いますが、2000年の段階では「人間の集中力は12秒持続する」と言われていたので、この短期間で4秒も縮まった等々とにかく色々と話題になりました。

その後、この研究はマイクロソフトが実施したものではないとか、金魚の集中時間を裏づける情報源がないとか、信憑性を疑わせる指摘が続出し、今では「金魚神話」と呼ばれています。どうやらマーケティング目的で作られた数字のようですが、これだけ世間に広まれば、その目的は達せられたと言えるのかも知れません。

とはいえ、現代が集中しにくい環境にある、現代人の集中を持続する力が落ちた(むしろ不要になった?)というのは、やはり事実であろうと思います。

為末大さんと今井むつみさんによる著書『ことば、身体、学び「できるようになる」とはどういうことか』(扶桑社)を読んでいると、次のようなことが書かれていました。

為末大さん

「競技で役に立つ技術は大体単純な動きです。あまり変化のない単純な動きの繰り返しに対して、意識をそらさないようにし続ける力を鍛えておくことが大切です。」

「外部の刺激によって集中することを覚えてしまうと、外部からの派手な刺激がなければ、集中ができなくなります。自ら壁のなにげない一点を見つめるようなことがある程度できないと、筋肉の一部位に意識をむけて継続することはできません。」

今井むつみさん

「気になるのは、教科書が色つきになり、ビジュアル的にとてもきれいになって、この先はデジタル教科書なども出てきて、どんどんわかりやすくなっていくことでしょうか。わかりやすくすると、その分、自分で考えなくても見ればわかるようになってしまいます。」

「そうやって学んだものは、応用も利かなくなります。少し場面が変わると使えなくなるという落とし穴があるので、何でもわかりやすくすればいいわけではありません。」  同書の中でも語られていますが、外的刺激によって学ばされているような環境では、本当の意味で学ぶことができず、結局、自ら集中して、自ら得たものしか、身に付くことはないのだと言えそうです。