2024年12月

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年のラグビーワールドカップ(W杯)において、日本代表をONE TEAMにしたことでも有名な実話(とされる話)があります。

『ハンガリー軍の偵察部隊が、スイスのアルプス山脈で軍事機動演習をしていたところ、急な猛吹雪に襲われて道に迷い遭難した。いったんテントに逃げ込んだものの、吹雪は止む気配がなく、しかも誰一人として地図を持っていない。このままだと全員凍死してしまう可能性が高いという絶望的な状況の下、隊員の一人が偶然、ポケットの中に山脈の地図を見つけた。一か八かだが、その地図にわずかな望みを託し、隊長以下全員が納得の上でリスクを取り下山することを決意した。そして、猛吹雪を耐え抜いた後、地図を頼りに歩みを進めた結果、無事に野営地への生還を果たす。ところが、帰還後、上官がその地図を調べてみると、それはアルプス山脈ではなくピレネー山脈の地図であった。』

私は山に詳しくないので、アルプス山脈とピレネー山脈と聞いても、それらの特徴について思い浮かぶことは何もありません。でも、どうやらこの2つの山脈の地形には多くの共通点があるらしく、よって、絶体絶命の精神状態であれば、勘違いしてしまうのも無理はないようなのです。とはいえ、本来は無関係の地図を使ったにも関わらず、結果として下山が成功した事実には、少なからぬ幸運が働いたことは間違いないでしょう。

さて、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、これは「センスメイキング理論」の説明でしばしば使われる事例です。そして、帰還が成功した鍵は、全員が納得した上で行動した点にあると言われています。

情報の正確性にこだわるあまり、例えば、本当にアルプス山脈の地図かどうか確かめてから行動しようなどと考えていると―仮に本物のアルプス山脈の地図であったとしても―凍死していたかも知れません。

人を動かすには、情報の正確性も大事な要素であることは間違いないでしょう。しかし、それと同等か、それ以上に大きな意味を持つものは、関わる全員を納得=腹落ちさせ、同じ方向を見据えさせられるかどうか、そのリーダーシップにあるのではないか―。この逸話は、エビデンスにこだわりすぎると、新しいものを生み出せないという話とも繋がるように思います。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。