2025年12月

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

今月は通常運転に戻り、ソマティック・マーカー仮説で有名なアメリカの神経科学者アントニオ・ダマシオがおこなった「グッド・ガイ(Good Guy)/バッド・ガイ(Bad Guy)実験」の話から。

この実験に、デイヴィッドという名前の男性が参加していました。この男性は、一般的なレベルの思考力もありましたし、言葉を話すこともできましたが、両側の側頭葉および海馬に広範な損傷があったため、新しい学習(記憶形成)ができなかったと言われています。

このデイヴィッドに対して、「グッド・ガイ(親切な人)」「バッド・ガイ(嫌な人)」「ニュートラル・ガイ(中立な人)」という異なる態度のスタッフを用意し、各々しばらく対応してもらいました。

そして1週間後、デイヴィッドに各スタッフの写真を見せ、好意的に感じる人物を選ばせたところ、80%以上の確率で「グッド・ガイ」を選択したのだそうです。また、「助けを求めるなら」「友人と思うなら」という質問に対しても、明らかに「グッド・ガイ」への選好傾向が見られたとのことでした。

先ほども申し上げたように、デイヴィッドは新しいことを覚えられず、よって、親切にされた記憶は残っていないはずなのに、なぜこのような結果が生じたのでしょうか。

結論を申しますと、「身体が覚えていた」ということです。写真を見ている時の心臓の鼓動、体温の変化、皮膚の感覚といった身体内部の情報が無意識領域で検知され、それが、「この人は好き」「この人は苦手」という、ある種の勘のように働いたと考えられています(ジェームズ=ランゲ説)。

つまり、好き嫌いや信頼などの態度に強い影響力を持つものは、ストーリーとしての知識(言語的記憶・映像的記憶)でもなく、認知でもなく、身体反応から生まれる感情こそが意思決定の本体であるということです。

ここから、身体反応をコントロールすることで、感情をコントロールすることができる。また、仮に自覚なく(無意識に)身体反応を抑制したり、身体反応の感度を下げたりする傾向が強ければ、感情は抑制され、判断も鈍るという話へと展開していきます。

SNSでもご購読できます。