メンタリティー

2023年8月

脳波を測りながら実践するメンタルトレーニングを「ニューロフィードバックトレーニング」とも呼ぶわけですが、メンタルトレーニングという手法(細かい説明は省きますが、ここでは狭義のメンタルトレーニング)には、効果が出やすい取り組み方、望ましい取り組み方があります。これまで、トレーニング中の脳波を数多く計測してきましたが、実際のところ、必ずしも理想的とは言えない状態が目立つのも事実で、その時、具体的に何が問題で、それに対して、どう対策を練れば良いかを伝えることがトレーナーの役割でもあります。

ちなみに、メンタルトレーニングを通じて目指すことは、緊張→リラックス、雑念→集中などの切り替えと、マインドセット(考え方)の反射形成が主で、例えば、自信、自尊心、自己肯定感、自己効力感などを、メンタルトレーニング単独で身に付けるのは困難であろうと思います。理由は、それらが自己の成功体験を通じて獲得されるものだからです。

ただし、それらに対してメンタルトレーニングで出来ることは何もないのかというと、そうではありません。成功体験を得るには行動が不可欠です。そして、行動を起こすために必要な主体的かつ積極的なメンタリティーは、トレーニングで強化することが出来ます。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」のようなもので、何もしなければ何も得られないわけですから、最初の一歩を踏み出す動機形成には大いに役立ちます。

さて、もともとこの文章は、最近の日本人アスリートの中で、その名を歴史に残すであろう2人の偉人、大谷翔平選手と井上尚弥選手の活躍を見た印象に基づいて書き始めました。大谷選手を見ていて特に感じられる、緩急のメリハリを利かせながらフラットな状態を保つ面は、メンタルトレーニングが得意とする部分であろうと思う一方、井上選手というか、格闘技としてのボクシングに求められるような、ファイトする場面で生み出される強靭さや爆発力の獲得は、メンタルトレーニングだけでは難しく、人生全体に及ぶ色々な経験から創発されるものであろうと思います。 スポーツに限らず、人生における「戦い」の場面で、複雑な感情を抱えながら勝負に挑み、苦しくとも最後まで諦めない強さ、ある種の理屈を超えた強さは、人としての総合力そのものです。そして、それは日々の経験を通じて培われるものであり、今日一日の過ごし方が関わるものでもあります。先ほどの2人を含め、世界を舞台に活躍する日本人の出現は、多くの人の行動やマインドセットを変え得るという意味でも素晴らしいことだと思います。

2021年1月

明けましておめでとうございます。

2021年が始まり気分一新…となっているのかどうか。これを書いている今は、まだ2020年末ですが、とにかく、皆様が無事に新年を迎えられていることを祈るばかりです。

2020年は色々な意味で“変わった”年でしたが、考えてみれば、かつての人類はステイホーム中心の、いわゆる村社会で生きていて、機械化が始まる産業革命の頃から、労働集約的な働き方、つまり、都市型の生活に変わっていきました。

産業革命以前の、農業を中心とした社会では、自然と共に生きていくことが自明であり、自然とは人間がコントロールしきれない存在として認識されていました。よって、最善の努力はすれども、最終的な結果に対しては、起こったことを受け入れるという心持ち=メンタリティーが形成されやすくなっていたであろうと推測されます。

一方、産業革命以後の、工業を中心とした社会では、生産活動の中心が機械に移りました。機械とは人工物であり、人間がコントロールしきれる道具です。よって、時間をかければかけるほど生産量を増やせることから、「24時間戦えますか」的な気合と根性を奨励する社会背景が、ここに誕生します。「働き方改革」な現代では、さすがにその発想は受け入れられないでしょうけど。

そう考えると、農業社会における目標とは「努力目標」であり、達成できなくとも「(ある程度は)仕方がない」と受け入れて、次に向かうしかないものでした。一方、工業社会における目標とは「達成目標」であり、達成できて当たり前、できなければ「ダメ」というような評価が下されやすくなります。

新しい年を迎え、今年の目標を決めたという方もいらっしゃるかも知れません。もちろん、それを達成するのも大切なことではありますが、たとえ計画通りにいかなくとも、あるいは、何かのきっかけで目標が180度変わることがあろうとも、それはそれで受け入れて、あるがままに、いかなる時も心穏やかに過ごす。それも、人生の味わい方の一つと捉えてみてはいかがでしょうか。 2021年が皆様にとって幸多き一年でありますように。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。