前回(2022年9月)の続きです。
ハイパーソニック・サウンド(HSE)とは、狩猟採集民として長期間を過ごした「熱帯雨林」などに豊かな音であり、その環境に適応進化した結果、現生人類に身に付いたものではないかというのが大橋氏の分析です。実際、熱帯雨林環境には20kHz以上の(100kHzを超える)超高周波成分が豊富に含まれている一方、都市化が進むほど超高周波領域は著しく貧弱になることが示されています。
また、騒音の大きさを示す単位はdB(デシベル)ですが、聴覚が健康な人に聞こえる最も弱い音を0dBとして、その10倍を10dB、100倍を20dB、1000倍を30dBと表記します(dBは音の大きさ、Hzは音の高さです)。色々な音のdBをまとめると下記の通りです。
120dB 飛行機のエンジン
110dB 自動車のクラクション
100dB 電車が通る時のガード下
90dB 騒々しい工場の中
80dB 窓を開けた地下鉄の車内
70dB 騒々しい事務所や街頭、掃除機、電車のベル
60dB 乗用車の社内、洗濯機、普通の会話
50dB 静かな事務所、家庭用クーラーの室外機
40dB 深夜の市内、図書館、静かな住宅地の昼
30dB 郊外の深夜、囁き声
20dB 木の葉の触れ合う音、置き時計の秒針の音
100dB辺りの音を想像すると、確かにうるさそうだなと思いますが、実は、熱帯雨林を含めた自然環境にも100dBを超える音は存在していて、では、それを不快に感じるかというと、そうとは限らず、むしろ心地よさを感じることさえあると言われています。その理由は、「高複雑性超高周波音」という音の情報構造にあるようですが、詳しい内容は、大橋氏の著書などをご確認いただくとして、簡単に言うと、変化に富んだ豊かな音という感じです。
大橋氏の著書では
現代文明圏の環境音として
・都市の静寂な室内音
・トラックが通過している道路の音
稲作漁撈文明圏の環境音として
・筑波の屋敷林
・ジャワ島熱帯雨林
・バリの村里
・ボルネオ熱帯雨林
などのスペクトル(※)が紹介されています。
(※)複雑な組成を持つものを成分に分解して、量や強度の順に規則的に並べたもの。
したがって、“うるさい音”は、音が大きいから“うるさい”とは言い切れず、音を構成する成分が重要ということになりますが、トラックの通過音のような、都市環境で生まれる人工的な音のスペクトルを見てみると、確かに、周波数の変化(20kHzを超える音)などが、ほとんど含まれていません。脳波の話にも出てきますが、「ゆらぎ」がない状態です。
特定の周波数を(耳や体で)聴くことの効果を謳う説もありますが、そこに自然な「ゆらぎ」がない(人工的に作られたものである)とすると、そもそも不自然で、それで本当に効果があるのか?という疑問は、HSEの研究からも窺われるところではあります。 熱帯雨林環境以外の「高複雑性超高周波音」を含む環境などについては、次月以降で。