ハイパーソニック・サウンド、大橋力、可聴周波数帯域

2022年10月

前回(2022年9月)の続きです。

ハイパーソニック・サウンド(HSE)とは、狩猟採集民として長期間を過ごした「熱帯雨林」などに豊かな音であり、その環境に適応進化した結果、現生人類に身に付いたものではないかというのが大橋氏の分析です。実際、熱帯雨林環境には20kHz以上の(100kHzを超える)超高周波成分が豊富に含まれている一方、都市化が進むほど超高周波領域は著しく貧弱になることが示されています。

また、騒音の大きさを示す単位はdB(デシベル)ですが、聴覚が健康な人に聞こえる最も弱い音を0dBとして、その10倍を10dB、100倍を20dB、1000倍を30dBと表記します(dBは音の大きさ、Hzは音の高さです)。色々な音のdBをまとめると下記の通りです。

120dB 飛行機のエンジン

110dB 自動車のクラクション

100dB 電車が通る時のガード下

 90dB 騒々しい工場の中

80dB 窓を開けた地下鉄の車内

70dB 騒々しい事務所や街頭、掃除機、電車のベル

60dB 乗用車の社内、洗濯機、普通の会話

50dB 静かな事務所、家庭用クーラーの室外機

40dB 深夜の市内、図書館、静かな住宅地の昼

30dB 郊外の深夜、囁き声

20dB 木の葉の触れ合う音、置き時計の秒針の音

100dB辺りの音を想像すると、確かにうるさそうだなと思いますが、実は、熱帯雨林を含めた自然環境にも100dBを超える音は存在していて、では、それを不快に感じるかというと、そうとは限らず、むしろ心地よさを感じることさえあると言われています。その理由は、「高複雑性超高周波音」という音の情報構造にあるようですが、詳しい内容は、大橋氏の著書などをご確認いただくとして、簡単に言うと、変化に富んだ豊かな音という感じです。

大橋氏の著書では

現代文明圏の環境音として

・都市の静寂な室内音

・トラックが通過している道路の音

稲作漁撈文明圏の環境音として

・筑波の屋敷林

・ジャワ島熱帯雨林

・バリの村里

・ボルネオ熱帯雨林

などのスペクトル(※)が紹介されています。

(※)複雑な組成を持つものを成分に分解して、量や強度の順に規則的に並べたもの。

したがって、“うるさい音”は、音が大きいから“うるさい”とは言い切れず、音を構成する成分が重要ということになりますが、トラックの通過音のような、都市環境で生まれる人工的な音のスペクトルを見てみると、確かに、周波数の変化(20kHzを超える音)などが、ほとんど含まれていません。脳波の話にも出てきますが、「ゆらぎ」がない状態です。

 

特定の周波数を(耳や体で)聴くことの効果を謳う説もありますが、そこに自然な「ゆらぎ」がない(人工的に作られたものである)とすると、そもそも不自然で、それで本当に効果があるのか?という疑問は、HSEの研究からも窺われるところではあります。  熱帯雨林環境以外の「高複雑性超高周波音」を含む環境などについては、次月以降で。

2022年9月

可聴周波数帯域を超えた超高周波成分を含む音が、脳深部の基幹脳ネットワーク(間脳・中脳・前頭前野など)の活性度を高め、心身にポジティブな効果をもたらす現象「ハイパーソニック・エフェクト(HSE)」について。大橋力氏(映画『AKIRA』の劇伴音楽を担当した芸能山城組を率いる音楽家・山城祥二氏と同一人物)の研究によると、人間が認識できる上限周波数20kHzの音に、50kHz以上の超高周波成分を加えて再生すると、(超高周波成分は音として認識できないにも関わらず)音の印象が変わり、心身にポジティブな反応が表れるのだそうです。

今や平成時代の遺物と化しつつあるCD(Compact Disc)には、規格上22.05kHzまでの音しか収録できません。その理由はいくつかあるようですが、例えば、人間の可聴域がおよそ20Hz~20kHzであり、しかも15kHz以上の音は音質に影響を与えないと考えられているため、20kHzくらいまでの音を再生できれば十分だから…など。しかし、自身の作品をCD化した結果、レコード(昭和時代の遺物?)からの音質の落差に大きなショックを受けた大橋氏が、脳科学の手法を導入して生理的反応面から見出した根拠がHSEでした。

可聴音のみの音と比較して、ハイパーソニック・サウンド(可聴音+超高周波音)では、基幹脳(間脳・中脳・前頭前野など)の血流増大、脳波α波の増大、免疫系への影響(NK:ナチュラルキラー細胞の活性)、内分泌系への影響(アドレナリンやコルチゾールなどストレス関連ホルモンの減少)、接近行動の増加(より大きな音で聴きたい)、好感度の増加(感動した、音質がよい、耳あたりよく響く)、また、映像と組み合わせた時の影響(画質がよい、美しく見える)などの、生理的指標を含めた効果(HSE)が確認されているようです。

接近行動や好感度の増加が、脳波α波の増大をもたらし、免疫系や内分泌系への影響に繋がるというのが、メンタルウェルネストレーニング的観点から考えられる一つの道筋でしょうか。

では、なぜHSEが起こるのか?続きは次月以降で。