2023年11月

褒めるか方が良いのか?叱る方が良いのか?はたして、どちらが良いのか?は、おそらく多くの指導者が迷うところだろうと思います。そこで今回は、この問題を「平均への回帰」という観点から考えてみましょう。

まず、あなたは指導者として、誰かの教育を担当していると仮定します。その相手が、明らかに能力を発揮できず失敗した場合、叱ったり励ましたりしながら、次の機会では能力を発揮できるように対応することが多いはずです。一方、いつも以上の能力を発揮して成功した場合、褒めたり称えたり、あるいは一緒に喜んだりしながら、次の機会でも同じような結果を残せるように対応することが多いかも知れません。

その結果、次の機会で、前回失敗した人は、見事に挽回して通常以上の成績を残し、前回成功した人は、打って変わって能力を発揮できず失敗すれば、その成功もしくは失敗(の一部)は、自分の対応の影響だと感じるのではないでしょうか。

実際のところ、大きな失敗の後に成功、大きな成功の後に失敗という現象は、高い確率で起こり得ます。なぜなら、実力そのものが上がるか下がるかしない限り、予想以上の成績も以下の成績も単なる外れ値に過ぎず、ある程度の長い目で見れば、結果は必ず平均値に収束するからです。

しかしながら、ここで指導者は、(失敗した時に)叱るか励ますことは次回の成功に繋がりやすく、(成功した時に)褒めるか称えることは次回の失敗に繋がりやすいことを学習します。そこから、次回の成功率を高めようとすれば、叱咤もしくは激励が優先され、褒め称えることを避けるようになり、気が付けば、もっともっとと相手を追い込む指導者が誕生することになります。

ここで、実際の学習効果について説明しておくと、減点法(叱るなどの罰を与える)と加点法(褒めるなどの報酬を与える)を比較した場合、学習効果を早く成立させるのは減点法で、学習効果を長く定着させるのは加点法と言われています。

この辺りのことは、例えば学校部活動において、限られた在学期間の勝ち負けに価値を置けば叱ることが重視され、卒業後を含めた教育効果に価値を置けば褒めることが重視される。つまり、短期的な発想で指導するのか、長期的な発想で指導するのかという行動にも現れる内容です。 私個人は短期的な発想で指導する立場にいないこともあり、指導者にとって大事なのは、結果に対して一喜一憂することではなく、「平均への回帰」を頭に入れながら、実力と結果の関係を適切に把握して次の手を打つことだと考えています。よって、褒めるか?叱るか?の前に、まずは、よく観察することが大事というのが私の意見です。

2023年10月

脳波ニューロフィードバック装置「アルファテック7」は、脳波をリアルタイムでモニターしながら脳活動の自己制御を試みる「ニューロフィードバック」トレーニングにも使える装置です。なお、「ニューロフィードバック」のための装置は脳波計に限らず、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)が使用されることもあります。

また、計測された脳の活動パターンをもとに、どのような刺激が提示されたのかを推定する手法として「デコーディング」というものがあります。

今回は、この「デコーディング」と、fMRIによる「ニューロフィードバック」を組み合わせて(デコーデット・ニューロフィードバック:DecNef)、特定の脳活動パターンを生み出すように訓練した、ATR脳情報通信総合研究所の柴田和久研究員らによる実験を紹介しましょう。

この実験では、まず、色々な角度の縞模様を被験者に見てもらい、同時にfMRIデータを取得します。そのデータをデコーディングして、各々の縞模様に対する脳活動パターンを抽出しました。

続いて、色々な縞模様の中から、ある特定の縞模様を選び、その縞模様を見ている時の脳活動を被験者に再現してもらいますが、この時、被験者本人は、何に関わる脳活動を再現するのかも知らされないまま実験に参加したのだそうです。被験者に与えられるフィードバックは、(何だか分からないけど)正解に近い脳活動を再現できているかどうかの成績のみ。したがって、何が評価されているのかも分からない中、とにかく、成績が向上するように試行錯誤したというわけです。

被験者の視点に立つと、なかなかつかみどころがない気もしますが、しかしながら、この訓練を約10日間続け、脳活動パターンを示す成績が向上するようになると、特定の角度の縞模様を知覚する能力が向上しました。

当然ですが、この実験期間中、被験者は、特定の縞模様を繰り返し見たわけではありませんし、そもそも、イメージすらしていないでしょう。それにも関わらず、ある縞模様を、他の角度(傾き)の縞模様よりも上手に見分けられるようになったという結果でした。

さすがに、ここまで精緻な評価にもとづくニューロフィードバックトレーニングは、アルファテック7では出来ません。それでも、脳の使い方に関しては、アルファテック7の使用でも十分に評価できますし、脳の使い方をトレーニングするだけでも、新たな能力を身に付けられたという意味では興味深い実験結果だと思います。

2023年9月

今月は選択盲の実験に関する話から。

早速ですが、まず、被験者に2枚の顔写真を見せ、数秒以内に、どちらの顔が好みかを判断してもらいます。その後、写真を裏返して、選んだ方を被験者に渡し、なぜ、そちらを選んだのかを説明してもらいますが、この時、被験者は手渡された写真を表にして、写真の顔を見ながら理由を述べます。

この実験では、数回ごとにトリックが仕掛けられます。被験者に見せた写真の裏には別の写真が隠されていて、例えば、Aの写真を選んだのであれば、被験者に渡されるのはBの写真、Bの写真を選んだのであれば、渡されるのはAの写真というように、自分が選んだ写真とは逆の写真を渡されるのです。

この場合、被験者は、それが間違いであることに気が付くのでしょうか?

もちろん、気が付く人もいたようですが、それは全体の20~30%と言われていて、70~80%は間違いに気が付きません。そればかりではなく、自分が、その写真を(本当は選ばなかったのに)選んだ理由について、あたかも本当に選んだかのように説明を始めます。

さらに、そこで述べた理由に含まれる特性が、トリックがなかった、つまり、Aの写真を選んだのであれば、Aの写真を渡され、Bの写真を選んだのであれば、Bの写真を渡されるというような、正しい写真を渡される場合と一致していたのです。その判断基準が、本当に確固たるものであれば、選ばれなかった写真は、それと照らして劣っていたはずなのに。

この話を、ダニエル・カーネマンの「システム1」と「システム2」に当てはめれば、両者に関わる脳の働きが、実は、あまり関連していないことを示しているのかも知れません。ここから、例えば、「システム1」に関わる「バイアスのある信念」に対して、システム2に関わる「規範的・合理的説明」を与えて説得しようと試みても、もともと異なる脳の働きに訴えかけている以上、お互いが歩み寄ることは極めて難しいと言うことも出来るでしょう。

これは、寄り添い、共感、文脈依存型の指導(を求めるクライアント)と、論理や確率を重視した、規範的合理性に基づく指導(を求めるクライアント)という分類にも繋がりそうですし、あるいは、脳波との関連について検討するのも面白そうな気がします。

2023年8月

脳波を測りながら実践するメンタルトレーニングを「ニューロフィードバックトレーニング」とも呼ぶわけですが、メンタルトレーニングという手法(細かい説明は省きますが、ここでは狭義のメンタルトレーニング)には、効果が出やすい取り組み方、望ましい取り組み方があります。これまで、トレーニング中の脳波を数多く計測してきましたが、実際のところ、必ずしも理想的とは言えない状態が目立つのも事実で、その時、具体的に何が問題で、それに対して、どう対策を練れば良いかを伝えることがトレーナーの役割でもあります。

ちなみに、メンタルトレーニングを通じて目指すことは、緊張→リラックス、雑念→集中などの切り替えと、マインドセット(考え方)の反射形成が主で、例えば、自信、自尊心、自己肯定感、自己効力感などを、メンタルトレーニング単独で身に付けるのは困難であろうと思います。理由は、それらが自己の成功体験を通じて獲得されるものだからです。

ただし、それらに対してメンタルトレーニングで出来ることは何もないのかというと、そうではありません。成功体験を得るには行動が不可欠です。そして、行動を起こすために必要な主体的かつ積極的なメンタリティーは、トレーニングで強化することが出来ます。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」のようなもので、何もしなければ何も得られないわけですから、最初の一歩を踏み出す動機形成には大いに役立ちます。

さて、もともとこの文章は、最近の日本人アスリートの中で、その名を歴史に残すであろう2人の偉人、大谷翔平選手と井上尚弥選手の活躍を見た印象に基づいて書き始めました。大谷選手を見ていて特に感じられる、緩急のメリハリを利かせながらフラットな状態を保つ面は、メンタルトレーニングが得意とする部分であろうと思う一方、井上選手というか、格闘技としてのボクシングに求められるような、ファイトする場面で生み出される強靭さや爆発力の獲得は、メンタルトレーニングだけでは難しく、人生全体に及ぶ色々な経験から創発されるものであろうと思います。 スポーツに限らず、人生における「戦い」の場面で、複雑な感情を抱えながら勝負に挑み、苦しくとも最後まで諦めない強さ、ある種の理屈を超えた強さは、人としての総合力そのものです。そして、それは日々の経験を通じて培われるものであり、今日一日の過ごし方が関わるものでもあります。先ほどの2人を含め、世界を舞台に活躍する日本人の出現は、多くの人の行動やマインドセットを変え得るという意味でも素晴らしいことだと思います。

2023年7月

「現状維持バイアス」を「ホメオスタシス」と結び付けるのは、ちょっと拡大解釈しすぎでは?など、自己都合的な謎解釈を目にすることは日常的によくあることだと思いますが、その中でも頻繁に耳にする(つい最近も耳にした)、勘違いなのかなんなのか…という件について。

代表的なものは、1971年に米国の心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」でしょう。詳しく知りたい方は、ググるなりなんなりして頂きたいのですが、他者とのコミュニケーションにおける影響は

視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%。

視覚情報とは、見た目、しぐさ、表情、視線など

聴覚情報とは、声質、声量、口調、トーン、スピード、テンポなど

言語情報とは、言葉の内容や意味など

よって、言語情報より、非言語情報(視覚+聴覚)の影響が大きい、言い換えると、何を言うかは7%にすぎず、どう言うかが93%を占める、云々かんぬんと説明されることが多いように思います。

ちなみに、聴覚情報に関するエッセイを2022年1月に書いているので、ご興味があれば、そちらにも目を通してください。

話を戻して、非言語情報が重要ということには同意する半面、上記の解釈そのものは、本来の「メラビアンの法則」とは少し異なります。

もともとは、視覚情報、聴覚情報、言語情報が一致しない(矛盾する)状態で同時に提示された場合、受け手側の印象として最優先されるのは視覚情報であり、聴覚情報、言語情報の順で影響力が低下するというもの。例えば、非言語情報として嫌悪感をあらわにしながら言語情報として好意を伝えるとか、無表情かつ抑揚がない話し方で楽しいという言葉を発するとかの場合、他者が、好意や楽しいを受け取る可能性は低い…と、まぁそうだよねという感じだと思いますが。

したがって、この法則が当てはまるのは、かなり特殊かつ限定された状況における影響の話であり、ここから、言語情報の優先順位が低いとか、言葉選びの重要度が低いなどの解釈を導けるわけではありません。 メンタルや脳波に関する解釈についても、根拠不明な、個人の語りにすぎないようなものもよくあるので、わが身を振り返りながら、出来る限り具体的な根拠に基づく解釈を伝えなくてはいけないという自分への戒めとして受け止めるようにしています。

2023年6月

脳の働きを単純化すると、信号の(入力→処理→出力)。したがって、頭の回転が速いとは、「入力→出力」までの時間が短いこと、記憶力が良いとは、正確に「(入力→)出力」できることとも言えるでしょう。

そうすると、「入力→出力」までを短時間で繰り返すような作業は、必然的に頭の回転を速め、記憶力(出力≒思い出す力)を高めるトレーニングにもなるので、ただ見たり聞いたりするだけではなく、行動(出力)に繋げるところまでが重要というわけです(それが思い出すということです)。

ですから、動画や音声を倍速視聴することは、一種のトレーニング的な意味合いを持つため、昔からよく使われる手法でもあります。個人的には、タイパ的なことにあまり拘りたくもないので、必要以上に採用したい視聴方法ではないですけど。

さて、ここからは(珍しく)商品宣伝です。

メテミミ感覚統合トレーニングセットという教材があります。

目(メ)手(テ)耳(ミミ)が名前の由来ですが、高速で再生される数字を聞きながら、指定された形式に合わせて解答用紙に数字を記入する。言い換えると、音声情報を聴き取り、視覚情報に変換して、身体(手)を通じて素早く表現する(書く)。たったこれだけの内容ですが、情報処理能力や記憶力を高めることに役立ちます。

負荷の種類(再生される音の速度や桁数など)は、実践する人の目的やレベルに合わせて変えるわけですが、ある一定の時間、集中力を持続できるかどうかもカギになります。

「簡単そうじゃん」と思われたかも知れませんが、聞こえてきた数字を書くだけと考えると、確かに何も難しいことはなさそうですよね。でも実際には、思いのほか苦労する人が多い取り組みで、記憶(入力)まではしたつもりが、いざ書こうとすると分からなくなるとか、これぞ、出力まで繋げられない典型例です。

人によりけりとはいえ、楽しいと感じる人も多い教材ですし、能力を高めたい人はもちろん、能力を維持したい人も実践する価値があると思います。よろしければトレーニングの一環として取り入れてください。

2023年5月

ここ数か月のAIの進歩には、すさまじいものを感じています。一気に何段階か飛び越えてしまった印象で、私も、ひとまずChat GPTの有料版「Chat GPT PLUS」などを利用しながら使い心地を確認していますが、人間とのコミュニケーションと比べても大きな違和感はありません。

Chat GPTを開発したOpen AIのHPによると、2021年までに収集されたWEB上のテキストデータをもとに、ユーザーのフィードバックを用いて継続的に学習を行っているとのことですから、2022年以降に関しては相対的に情報量が少なくなるとしても、知識量そのものは、どの人間にも勝るはず。

もちろん、コミュニケーションに違和感がないとは言っても、確率的に言葉を並べているにすぎず、よって、文章の意味を理解しているわけではありませんが、こちらの意図が伝わったと感じられるくらいには情報を整理して答えを返してくれるので、すごく優秀な秘書がついた感覚はあります。ブレインストーミングとかも、一人で出来てしまう感じですしね。

いずれは、音声によるやりとりも出来るようになるでしょうし、AIを利用すれば、“一般的な”資料やら、“誰かっぽい”作品やらは、ほぼ自動生成されるようになるので、人間の役割とか、人間として何をするのかとかいうことを真剣に考えなくてはいけない時代になりそうです。そんなことを言っている間に、教育のあり方などは、もう差し迫った課題でしょうしね。

「検索」という行為が必要なくなるくらいの状況で、Googleが、どう対応するのかも注目ですが、その一方で、AIに何をさせる(させない)のか、また、動力としての電力の問題など、早急に対応しなければならない懸案事項も多々あります。それでも、この先の未来において、AIとの共存が避けられないことは事実でしょうから、これも人類の進化(変化)と受け止めて、自分なりの距離感を模索している今日この頃です。(あと、正しい文章を作れることは、今後ますます重要な能力になると思います。)

2023年4月

2023年度~メンタルウェルネストレーニング(MWT)協会の会長を引き継ぐことになりました。

そして、これまで私が務めて来た副会長には、ビジョントレーニング推進委員会委員長の岸浩児と、同委員でウェルネストレーニング教室大阪・谷町校教室長の北川健太が新たに就任します。また、前会長の志賀一雅には、相談役として今後も協会の活動をサポートしてもらいます。

これまで皆様から頂戴した、ひとかたならぬご支援に心から感謝を申し上げるとともに、新たな体制に変わるMWT協会も、何卒よろしくお願い申し上げます。

さて、2023年はスポーツのビッグイベントが目白押しのようで、既に、日本の若い世代の大活躍を目にした人も多いでしょう。そして、驚くべきは彼(女)らのコメント力の高さではないでしょうか。失言がないことはもちろんですが、謙虚さと相手への敬意を示しながら、物怖じせず当意即妙に受け答えする様子には、本当に時代が変わったことを実感させられます。

もちろん、そのための教育がきちんとなされていることも大きな理由の一つだとは思いますが、それでも、感情表現豊かに、自分だけではなく、仲間、関係者、観衆の気持ちさえも鼓舞する姿には、その競技を詳しく知らない人でも思わず魅了されてしまいますよね。

そうした選手の成長には、おそらく私と同世代の人達が多く関わっているはずであり、私達の世代は、その前の世代の影響を受けているはずです。連綿と受け継がれるものの先に各世代があるのは、時代も場所も分野も問わないことですので、先達に学びながら、その教えをどのように発展させて行くのか、そして、どのように次の世代に何を伝えて行くのか。これは、私達にとっても、常に念頭に置くべき課題であると認識しています。 1人の天才ではなく、多くの才能あふれる若者が誕生していることは、時代が変化している証と捉えて、私達も、その流れをしっかりと踏まえながら挑戦を続けて参ります。

2023年3月

去る2月26日(日)、株式会社脳力開発研究所40周年、一般社団法人メンタルウェルネストレーニング協会10周年、志賀一雅米寿前年の合同記念祝賀会を後楽園飯店で開催しました。

ご参加くださった皆様、ありがとうございました。メッセージを寄せてくださった皆様、ありがとうございました。

参加された皆様への記念品として、この日のために書き上げた私の著書、「メンタルトレーニングの思考法」を贈呈しましたが、「思考法」というタイトルには、メンタルトレーニングを、テクニックとしてではなく、考え方として伝えたいという意味を込めています。

私が知る限りでも、メンタルトレーニングに関連するテクニックは無数にあります。そして、向き不向きはあるにせよ、どの手法を用いても、結果が出る人は間違いなくいるはずです。しかし、私たちのメンタルトレーニング(メンタルウェルネストレーニング)では、基本的に、それらのテクニックを使いません。

…と、勇ましい?発言をしたものの、私も日和ってしまうことがあるため、そうしたテクニックに手を出そうとすることはあります。なんであれ、実際に試してみること自体は大事だと思いますので。

ところが、ある時、その様子を見ていた志賀から、「そんじょそこらのメンタルトレーニングと同じことをしないように」と指摘を受けました。

“そんじょそこら”には、型があり、手法があります。ただ単に良い結果を出すだけなら、それらの安心確実な方法に当てはめれば充分可能でしょう。しかし、脳波の研究にもとづくメンタルトレーニングという未開の領域を切り拓いてきたイノベーターから見れば、そこが私たちの目指す場所ではないと伝えたかったのかも知れません。そのため、テクニックではなく、考え方を伝えることが重要であり、その考え方のエッセンスをまとめようと試みたのが、「メンタルトレーニングの思考法」というわけです。

脳力開発研究所を引き継ぎ、メンタルウェルネストレーニング協会を立ち上げた当時から、メンタルウェルネストレーニングの大本である「志賀式メンタルトレーニング」を現代的に再解釈して、そのエッセンスを伝え広めることがミッションの一つでした。

もちろん、良い結果を残すためにトレーニングを提供する以上、“そんじょそこら”でなければ何でもOKと言うつもりはありません。しかし、「志賀式」の精神性を受け継ぐのであれば、型にはまらない自由な発想で、みずから道を切り拓こうとするイノベーション精神を持つ者こそ、私たちの考えるトレーナーに相応しいはずです。

そうした人材の育成には何が必要なのか、そうした人材が活躍するには何が必要なのかを模索しながら、今後も活動を続けていく所存です。

後楽園飯店

https://www.tokyodome-hotels.co.jp/restaurants/list/hanten/

メンタルトレーニングの思考法

https://www.mentaltrainingstore.jp/

2023年2月

保育園に子供を預けている保護者は、定刻までに子供を迎えに来るわけですが、もし、遅刻をする保護者が多い場合、どのような対策を講じて行動変容を促そう(定刻に来てもらおう)とするでしょうか?

ここでは、カリフォルニア大学サンディエゴ校の、ウリ・ニーズィー教授の研究をもとに話を進めます。

この研究によると、保育園側が講じた対策は罰金を科すことでした。それによって、「遅刻をしてしまった!」という心理的負担+経済的負担というダブルの負担を負わせて、遅刻を減らそうとしたわけです。その結果、保護者の行動は確かに変容しました。ただし、保育園側の意図とは正反対の方向に。つまり、罰金制度を設けた結果、遅刻をする保護者が、むしろ増えてしまったということですが、なぜ、そのようなことが起きたのでしょうか。

罰金は、当然「罰」ですから、ルールを設定して、違反した人に経済的負担を科すものです。しかし、ルールというものは、もともと気にしない保護者には効力がありませんし、もともと倫理観が強い保護者には意味がありません(「遅刻は良くない」と伝えるだけで十分です)。したがって、罰金制度による影響を強く受けるのは、「みんなが守っているから、自分も守っておこうかな」という態度の保護者であると考えられます(往々にして最もボリュームが多いゾーンでもあります)。

罰金制度が設けられる以前、定刻を越えて預かるのは、あくまでも保育園側の厚意であったため、遅刻をした保護者は、「申し訳ない」などの心理的負担を抱えることがありました。そこに罰金が設定されると、預かり時間の延長が、保育園側の厚意から、お金で時間を買う行為に変わります。つまり、「たとえ遅刻をしても、お金を払う以上は正当な権利」のように、保護者の心理的負担を、経済的負担に変えてしまいました(保育園側が意図した、心理的負担+経済的負担にはなりませんでした)。

保育園側は自分たちの失敗に気が付き、すぐに罰金制度を廃止しましたが、時すでに遅し。一度、預かり時間の延長を経験した保護者は、罪悪感なく遅刻を繰り返すようになり、歯止めが利かなくなってしまったそうです。「もし遅刻を減らしたいなら、罰金制度を復活させれば良いじゃない」ということですね(そうすれば、お金を払いたくない保護者は遅刻をしなくなる)。 罰を与えることで行動変容を促すのは、思い付きやすいアイディアだと思いますが、予期せぬ行動を促したり、かえってモラルや規範が崩壊したりする恐れもあるという事例です。