2018年10月

マインドフルリスニングという話の聞き方があります。

徹底して聞くことに集中する“姿勢”を表す概念ですが、人が1分間に喋れる単語数は225語くらいまで、聞ける単語数は500語くらいまでなのだそう。その差275語。この275語が重要で、話を聞きながら275語分の余裕で色々と考えてしまう結果、他人の話に余計な脚色をして、勝手に情報を歪めてしまうことがある。だから、それを止めることが、純粋に“聞く”という行為であり、それをマインドフルリスニングと呼ぶのだそうです。

何か質問しようと頭を働かせることもなく、とにかく興味を持ちながら話を聞いていると、それが自然と態度にも表れるため、相手も安心して喋るようになる。よって、興味を持って話を聞くことが大事ということでもありますね。

相手の話に興味がない場合は、どうすれば良い?という声も聞こえてきそうですが、最初から心を閉ざしてしまっては興味が湧くはずもありません。また、そもそも興味がないというよりは、自分の興味と繋げられないことが問題なのだと思います。興味とは理屈ではないため、相手の話に合わせようと頑張る必要もなく、自分の立脚点から同心円を広げれば良いだけなのだと思います。虚心坦懐に。

2018年9月

ニッチな話かも知れませんが、高校野球(硬式)の投手の球数制限に関する意見を結構よく耳(目)にします。以前、メンタルウェルネストレーニング(MWT)協会の研究会でも触れたことがある話題でして、少々気になったため、簡単に私見を述べさせて頂きます。ちなみに私は、球数制限ありに賛成派です。

球数制限なし派の意見としては、「体力の限界を超えて頑張る姿が感動に繋がる」「苦しい状況を乗り越えることで忍耐力が身につく」などが、比較的多数を占めるかと思います。

「感動」という見解に対しては、観戦する側のエゴという応答で十分でしょう。また、「忍耐力」というのは、確かにその通りですが、それは他のことでも身につけられるものであり、ゆえに、球数制限不要論を支える強力な根拠にはなり得ません。そもそも、球数が増えることで身体の負担が増すことの危険性を議論しているわけですから、論点がズレていますし、これこそ根性論に繋がる発想のような気がします。

個人的には、球数制限を設けることで、より多くの選手(生徒)に試合への出場機会が与えられる方が、本来は教育の一環である部活動の存在意義にも適っていると思います。また、一部のスター選手(生徒)に頼れなくなるのであれば、皆で力を合わせざるを得なくなるため、結果的にチームワークの重要性が増すはずです。そして、球数制限がある中で、どう試合を進めるかという点では、監督や選手を含めたチーム全体としての戦い方を明確にする必要性が生じるため、今まで以上に、日頃からの意思疎通が大切になるでしょう。 制約条件を最大限に利用しながら、望む結果に結びつける経験を積む方が、社会に出る準備としても役立つように思うのですが、それにしても、つくづく日本人は根性論が好きなんだなぁと感じる一件です。こうなってくると、誕生の経緯に根性論へのアンチテーゼ的な意味合いを持つメンタルトレーニングの出番、ですかね。

2018年8月

成功体験によって、人は作られていくのだなと改めて感じました。

「苦しみの先に喜びがある」という経験を積んだ人は、他人にも同じような経験を求めてしまうものなのかも知れません。何と言っても、当人にとっては偽らざる成功体験=正解なわけですから。

もちろん、苦しみを乗り越えたからこそ得られる喜びも、苦しみを乗り越えないと得られない喜びも、どちらもあると思います。しかし、あらゆる体験は、“特殊な”前提条件のもとで成立したものに過ぎないはずです。

「苦しみの先にしか喜びはない」―これが個人の見解に止まるのであれば、何も問題はありません。特に、その苦しみが自ら選び取ったものであれば、どのような結果に終わったとしても、その人の人生に大きな意味を与えることでしょう。一方、その苦しみが無理やり押しつけられたものだとすれば、果たして、その先に喜び=成功体験はあるのでしょうか?

個人の体験は、どこまでいっても固有の経験に過ぎません。自分にとっての正解が、他人にとっても正解になるとは限らない。その視点を忘れてはいけないと思います。

2018年7月

サッカーワールドカップ2018、日本代表の挑戦が終わりました。

頂点を目指す戦いは、これから佳境を迎えますが、大会開幕以来どこにいっても日本代表の話を耳にする機会が多く、こうやってアレコレ会話をすることが理屈抜きに楽しいんだろうなと感じていました。

ちなみに、今回の日本代表チームには、メンタルトレーナーと呼べるような心理面の専門家がいなかったそうです(選手個々が契約しているトレーナーはいたようですが)。日本の他の競技団体についても似たり寄ったりで、海外と比較した場合、日本のスポーツ界には“メンタル”を重視する(きちんとした指導者の下でメンタルをトレーニングする)発想が弱いため、そういう態度が、ひょっとすると昨今の指導現場におけるトラブルとも通底しているのかなとか。ま、これはかなりバイアスのかかった意見だと思いますが。

能力が最大限に発揮されて、しかも成長を促すために必要なメンタル面の要素は、積極的な態度で楽しむことですから、その辺りの理解が浸透すると、選手にとっても指導者にとっても、今は欠けているピースの一つが見つかるのかも知れません。

2018年6月

「ヒラメキ・天才・アイデア・最高パフォーマンス 奇跡の《地球共鳴波動7.8Hz》のすべて」(ヒカルランド)は、既にお読みになられたでしょうか?

(株)脳力開発研究所の創業者であり、現・相談役の志賀一雅が執筆した、脳波に関する最新著書です。豊富なカラー写真と計測事例をもとに、脳波の可能性について、読みやすく分かりやすくまとめられています。

この書籍が出版されて以降、脳波についての話をする機会が増えたように感じますが、それだけ多くの方に興味を持っていただいた結果だと思います。ご要望が多数あるようでしたら、続編の可能性もあるかも知れませんので(?)まずはぜひ御一読ください。

 メンタルトレーニングストアでも販売しています。

https://www.mentaltrainingstore.jp/view/item/000000000342?category_page_id=mental-book

2018年5月

メンタルウェルネストレーニング指導者1級資格認定講座とインストラクター資格認定講座の内容をリニューアル中です。これまでも少しずつ手を加えてきましたが、変更箇所がかなり多くなったため、この辺りで全面的にまとめ直してみようと思います。

インストラクター講座については、MWTコースプログラム(と関連教材)も全面的に作り直しているところです。大きな変更をかけるのは3回目、今回のものが完成すればVer.3になります。 どちらの講座も、次回開催は9月の東京ですので、スケジュール的には少し先の話ですが、未受講の方はもちろん、もう一度学んでみたいという方も、この機会に参加してみてください。再受講は、通常料金の10%という破格の設定でもありますので!

2018年3月

先日まで開催されていた平昌オリンピックでは、日本選手が大活躍したようですね。そして、3/9(金)からは、平昌パラリンピックが開催されます。再び、日本選手の活躍を期待しましょう。

前回の続きで、テーマは「スポーツとメンタルトレーニング」。今回は日本編。

日本では、1960年のローマ五輪の頃から、「あがり」の防止を中心としたメンタルトレーニング研究が始まっていたようですが、残念ながら、指導現場の理解や協力が、なかなか得られなかったとのこと。その理由は、日本の伝統として(?)精神の強化はハードトレーニングの過程で身につくという、いわゆる根性論が支配的だったからと言われています。

その根性論を乗り越えるために開発されたのが、前回紹介した旧ソ連版のメンタルトレーニングだったわけですが...。1964年の東京五輪での「東洋の魔女」の登場(スパルタトレーニングの代名詞的存在)や、スポコンアニメや漫画の普及などもあって、耐えて強くなることの美学が先行してしまいましたからねぇ...。

今日でも、応援する側の「期待の押しつけ」で、ケガを抱えた選手に無理をさせてしまうような事例はありますから、メンタリティー的には、あまり変わっていないのかも知れません(もちろん根性も大事ですけど)。

最後に、近年のメンタルトレーニングの動向について触れておきますと、根性論を越えた先にポジティブ・シンキングが生まれ、でも、それは認知の変容、簡単に言えば「良い気分になるという意味での気持ちの切り替え」には有効だが、モチベーションやパフォーマンスの向上には必ずしも繋がらないことが分かってきました。

そこで、いかにモチベーション(内発的)を高め、それを持続させるか、そのことによってパフォーマンス・アップを実現するかという方向に研究が進んでいるようです。

2018年2月

平昌冬期五輪が開催されるタイミングに合わせて、五輪を中心にスポーツとメンタルトレーニングに関する内容です。

スポーツ分野のメンタルトレーニングが、宇宙飛行士養成訓練の内容から応用されたというのは、よく知られた話。

地球人にとって最も異質な環境は、地球外の宇宙空間であり、仮に、そこでパニックを起こした場合の危険度は、地球内(上?)の比ではありません。そのため、1950年代のソビエト連邦(旧ソ連)で、宇宙飛行士を対象とした緊張・不安などを解消するための心理的自己統制トレーニングが採用されました。

そのトレーニングを、アスリートとコーチ用に体系化して、組織的に指導したのがスポーツメンタルトレーニングの起こりと言われています。

なお、この分野の現在のトップランナーはアメリカ合衆国で、その理由はNASAの研究が進んでいるからだそうですが、宇宙開発との深い関係は、今も変わらないというところでしょうか。

 話を戻して、1957年から、旧ソ連では国家プロジェクトとして、トップアスリートに対する心理面の強化などを目的としたトレーニングが開始されます。その成果は、1960年のローマ五輪におけるメダル獲得数に表れました。

1960年(夏季)イタリア:ローマ五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1ソビエト連邦432931103
2アメリカ合衆国34211671
3イタリア13101336
4東西統一ドイツ12191142
5オーストラリア88622
6トルコ7209
7ハンガリー68721
8日本47718
9ポーランド461121
10チェコスロバキア3238

1956年(夏季)オーストラリア:メルボルン五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1ソビエト連邦37293298
2アメリカ合衆国32251774
3オーストラリア1381435
4ハンガリー910726
5イタリア88925
6スウェーデン85619
7東西統一ドイツ613726
8イギリス671124
9ルーマニア53513
10日本410519

1952年(夏季)フィンランド:ヘルシンキ五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1アメリカ合衆国40191776
2ソビエト連邦22301971
3ハンガリー16101642
4スウェーデン12131035
5イタリア89421
6チェコスロバキア73313
7フランス66618
8フィンランド631322
9オーストラリア62311
10ノルウェー3205

その後、1970年代~1980年代にかけて、同様のトレーニングが東欧諸国にも広がり、1976年のモントリオール五輪におけるメダル獲得に大きく貢献しました【※1】。

1976年(夏季)カナダ:モントリオール五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1ソビエト連邦494135125
2東ドイツ40252590
3アメリカ合衆国34352594
4西ドイツ10121739
5日本961025
6ポーランド761326
7ブルガリア69722
8キューバ64313
9ルーマニア491427
10ハンガリー451322

1972年(夏季)西ドイツ:ミュンヘン五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1ソビエト連邦50272299
2アメリカ合衆国33313094
3東ドイツ20232366
4西ドイツ13111640
5日本138829
6オーストラリア87217
7ポーランド75921
8ハンガリー6131635
9ブルガリア610521
10イタリア531018

【※1】なお、アフリカ22か国が人種隔離政策(アパルトヘイト)に関わる問題で、また、中国が台湾に関わる問題で、それぞれ大会をボイコットしています。

 1980年代に入ると、西側諸国でも、アスリートの強化・育成に向けたメンタルトレーニングが導入されます。

 一例として、1982年、アメリカ五輪委員会が、メンタルトレーニングを専門としたスポーツ心理学者を雇用して、各競技団体に1名ずつ配置する「エリート・アスリート・プロジェクト」をスタートさせます。その成果は、1984年のロサンゼルス五輪における大躍進に繋がりました【※2】。

1984年(夏季)アメリカ合衆国:ロサンゼルス五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1アメリカ合衆国836130174
2ルーマニア20161753
3西ドイツ17192359
4中国158932
5イタリア1461232
6カナダ10181644
7日本1081432
8ニュージーランド81211
9ユーゴスラビア74718
10韓国66719

1980年(夏季)ソビエト連邦:モスクワ五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1ソビエト連邦806946195
2東ドイツ473742126
3ブルガリア8161741
4キューバ87520
5イタリア83415
6ハンガリー7101532
7ルーマニア661325
8フランス65314
9イギリス57921
10ポーランド3141532

【※2】ただし、モスクワ五輪もロサンゼルス五輪も、冷戦の影響で多くの国が大会をボイコットしたため、単純な比較は出来ません。

日本の状況については、次回のエントリーでまとめる予定です。

平昌五輪に出場する選手の活躍を祈念するとともに、各選手が、どうメンタルを調整して競技に臨むのかという点にも、ぜひご注目ください。