エントロピー

2026年3月

(先月の続き)ヒトも自然の一部ですから、エントロピー増大の法則はヒトの心にも当てはまります。

たとえば、集中力やモチベーション。これらは放っておくと崩れるというか、分散していくもの。したがって、「やる気が続かない自分はダメだ」「集中できない自分はダメだ」と思う必要はなく、むしろ、できてしまう方が特殊とも考えられるわけです。エサを探すことや食べることに夢中になれば、天敵の接近に気づかず捕食されてしまう危険性が高まるため、野生では、集中力より分散力の方が大事という意見もあるくらいですので。

ただし、人間社会では、そんな悠長なことばかりを言っていられないのも事実。では、どうすればよいのか?というところで、心のエントロピー増大を遅らせる技術がメンタルトレーニングだったりするわけです。

呼吸法も、ルーティンも、セルフトークも、すべては、秩序が失われやすい心に、最小限のエネルギーで秩序を与える手段です。だからこそ、メンタルトレーニングは、この社会で生きる人のための必須スキル(の一つ)と言うことができると思います。

また、先月のゲームの話では、完全に公平な初期条件とルールが与えられたとしても、結果は偏るという現象を紹介しました。

それに対して、仮に結果の平等を保とうとするのであれば、「自然の流れに逆らう意図的な仕組みと継続的な関与が必要」と書きましたが、ここからは、意志、根性、気合などに頼る危うさを指摘することができます。なぜなら、意志などは「継続的な関与」にあたり、それらの維持にはエネルギーが必要だからです。

そう考えると、いつもいつも意志やモチベーションに頼るようでは、認知的な疲労も起こりやすくなるでしょうし、パフォーマンスが不安定になることも増えるでしょう。よって、呼吸法などの「意図的な仕組み」を利用しながら、意志に頼らなくても整う「反射」を形成することが重要という話につながります。

まとめると、心が乱れるのは、弱いからではなく、それが自然だからです。もちろん、多少は自然の秩序に逆らうことが必要な時もあるわけですが、努力で踏ん張るばかりだと、じきに限界が訪れてしまいます。そこで、心は分散しやすいという大前提を仕組みと構造化の技術で乗り切る知恵が、メンタルトレーニングであるということです。

2022年8月

現在、MWT協会の機関誌を製作している最中ですが、私も毎回2~3の記事を担当していて、その過程で不採用にする文章が、いくつかあります。普段は、そのまま削除して終わるのですが、ちょうどメルマガを書く時期と重なったため、その中からネタを1つ転用しようと思います。

参考文献は「予測不能の時代」(著者:矢野和男)

テーマは、エントロピー増大の法則と不平等の拡大。

エントロピー増大の法則(熱力学第2法則)については、大学時代に履修した「論理学」という結構マイナーな授業でも扱っていた記憶があるのですが、自然法則としては基本中の基本。ちなみに、熱力学第1法則は、ご存じ「エネルギー保存の法則」です。

授業で学んだ時は、エントロピーに「乱雑さ」とか「無秩序さ」という日本語を充てて、エネルギーが低い状態に向かい「乱雑さ」を増して行く現象とか、そのような説明を受けました。水は低きに流れるとか、暑いと氷は解ける、寒いと水は凍るとか、そんな感じのことをイメージすれば分かりやすいでしょうか。

この現象は森羅万象に当てはまります。当然、人体もエントロピーが増大するわけですから、時間が経つにつれて乱雑さが増し、老化が進み、その最終形として「死」に至るというわけ。より具体的には、細胞の境目が曖昧になるという意味での乱雑さが「老化」を表しているらしいですが。

さて、エントロピー増大の法則をシミュレーションするために、平等な状態から始めて、平等な確率で行われる取引を繰り返すと、最終的には不平等になる、つまり格差が生じるのだそうです。なぜなら、乱雑さとは、ばらつき=多様性がある状態のことで、多様性がある=違いがあるということで、違いがある=格差があるということだから。

もう気が付かれた方もいらっしゃるかも知れませんが、乱雑さとは、言い換えると“自然な”状態のことです。よって、先のシミュレーションにおける“平等”とは、本質的に不自然な状態であり、(多様性を認めることも認めないことも含めた)多様性こそ、自然が進む本来の方向性である、ゆえに格差が生じるというわけですね。

裏返すと、平等(が良いか悪いかの議論はさておき)のような“作られた”状態が維持されるのは(身に付くのは)、意図的な働きかけの結果ということも表しているのだと思います。