スポーツ

2018年3月

先日まで開催されていた平昌オリンピックでは、日本選手が大活躍したようですね。そして、3/9(金)からは、平昌パラリンピックが開催されます。再び、日本選手の活躍を期待しましょう。

前回の続きで、テーマは「スポーツとメンタルトレーニング」。今回は日本編。

日本では、1960年のローマ五輪の頃から、「あがり」の防止を中心としたメンタルトレーニング研究が始まっていたようですが、残念ながら、指導現場の理解や協力が、なかなか得られなかったとのこと。その理由は、日本の伝統として(?)精神の強化はハードトレーニングの過程で身につくという、いわゆる根性論が支配的だったからと言われています。

その根性論を乗り越えるために開発されたのが、前回紹介した旧ソ連版のメンタルトレーニングだったわけですが...。1964年の東京五輪での「東洋の魔女」の登場(スパルタトレーニングの代名詞的存在)や、スポコンアニメや漫画の普及などもあって、耐えて強くなることの美学が先行してしまいましたからねぇ...。

今日でも、応援する側の「期待の押しつけ」で、ケガを抱えた選手に無理をさせてしまうような事例はありますから、メンタリティー的には、あまり変わっていないのかも知れません(もちろん根性も大事ですけど)。

最後に、近年のメンタルトレーニングの動向について触れておきますと、根性論を越えた先にポジティブ・シンキングが生まれ、でも、それは認知の変容、簡単に言えば「良い気分になるという意味での気持ちの切り替え」には有効だが、モチベーションやパフォーマンスの向上には必ずしも繋がらないことが分かってきました。

そこで、いかにモチベーション(内発的)を高め、それを持続させるか、そのことによってパフォーマンス・アップを実現するかという方向に研究が進んでいるようです。

2018年2月

平昌冬期五輪が開催されるタイミングに合わせて、五輪を中心にスポーツとメンタルトレーニングに関する内容です。

スポーツ分野のメンタルトレーニングが、宇宙飛行士養成訓練の内容から応用されたというのは、よく知られた話。

地球人にとって最も異質な環境は、地球外の宇宙空間であり、仮に、そこでパニックを起こした場合の危険度は、地球内(上?)の比ではありません。そのため、1950年代のソビエト連邦(旧ソ連)で、宇宙飛行士を対象とした緊張・不安などを解消するための心理的自己統制トレーニングが採用されました。

そのトレーニングを、アスリートとコーチ用に体系化して、組織的に指導したのがスポーツメンタルトレーニングの起こりと言われています。

なお、この分野の現在のトップランナーはアメリカ合衆国で、その理由はNASAの研究が進んでいるからだそうですが、宇宙開発との深い関係は、今も変わらないというところでしょうか。

 話を戻して、1957年から、旧ソ連では国家プロジェクトとして、トップアスリートに対する心理面の強化などを目的としたトレーニングが開始されます。その成果は、1960年のローマ五輪におけるメダル獲得数に表れました。

1960年(夏季)イタリア:ローマ五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1ソビエト連邦432931103
2アメリカ合衆国34211671
3イタリア13101336
4東西統一ドイツ12191142
5オーストラリア88622
6トルコ7209
7ハンガリー68721
8日本47718
9ポーランド461121
10チェコスロバキア3238

1956年(夏季)オーストラリア:メルボルン五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1ソビエト連邦37293298
2アメリカ合衆国32251774
3オーストラリア1381435
4ハンガリー910726
5イタリア88925
6スウェーデン85619
7東西統一ドイツ613726
8イギリス671124
9ルーマニア53513
10日本410519

1952年(夏季)フィンランド:ヘルシンキ五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1アメリカ合衆国40191776
2ソビエト連邦22301971
3ハンガリー16101642
4スウェーデン12131035
5イタリア89421
6チェコスロバキア73313
7フランス66618
8フィンランド631322
9オーストラリア62311
10ノルウェー3205

その後、1970年代~1980年代にかけて、同様のトレーニングが東欧諸国にも広がり、1976年のモントリオール五輪におけるメダル獲得に大きく貢献しました【※1】。

1976年(夏季)カナダ:モントリオール五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1ソビエト連邦494135125
2東ドイツ40252590
3アメリカ合衆国34352594
4西ドイツ10121739
5日本961025
6ポーランド761326
7ブルガリア69722
8キューバ64313
9ルーマニア491427
10ハンガリー451322

1972年(夏季)西ドイツ:ミュンヘン五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1ソビエト連邦50272299
2アメリカ合衆国33313094
3東ドイツ20232366
4西ドイツ13111640
5日本138829
6オーストラリア87217
7ポーランド75921
8ハンガリー6131635
9ブルガリア610521
10イタリア531018

【※1】なお、アフリカ22か国が人種隔離政策(アパルトヘイト)に関わる問題で、また、中国が台湾に関わる問題で、それぞれ大会をボイコットしています。

 1980年代に入ると、西側諸国でも、アスリートの強化・育成に向けたメンタルトレーニングが導入されます。

 一例として、1982年、アメリカ五輪委員会が、メンタルトレーニングを専門としたスポーツ心理学者を雇用して、各競技団体に1名ずつ配置する「エリート・アスリート・プロジェクト」をスタートさせます。その成果は、1984年のロサンゼルス五輪における大躍進に繋がりました【※2】。

1984年(夏季)アメリカ合衆国:ロサンゼルス五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1アメリカ合衆国836130174
2ルーマニア20161753
3西ドイツ17192359
4中国158932
5イタリア1461232
6カナダ10181644
7日本1081432
8ニュージーランド81211
9ユーゴスラビア74718
10韓国66719

1980年(夏季)ソビエト連邦:モスクワ五輪メダル獲得数

順位国・地域合計
1ソビエト連邦806946195
2東ドイツ473742126
3ブルガリア8161741
4キューバ87520
5イタリア83415
6ハンガリー7101532
7ルーマニア661325
8フランス65314
9イギリス57921
10ポーランド3141532

【※2】ただし、モスクワ五輪もロサンゼルス五輪も、冷戦の影響で多くの国が大会をボイコットしたため、単純な比較は出来ません。

日本の状況については、次回のエントリーでまとめる予定です。

平昌五輪に出場する選手の活躍を祈念するとともに、各選手が、どうメンタルを調整して競技に臨むのかという点にも、ぜひご注目ください。