住友 大我

2024年3月

現代は外的な刺激に満ちた時代である―これは誰もが日々実感していることだと思います。その象徴的な存在がスマホで、おかげで現代人の集中力が落ちたと言われたりもしますが、それを支持する報告として一時期もて囃されたのが、マイクロソフト・カナダの研究チームによる2015年の発表でしょう。

「現代人の集中力は8秒しか続かず、これは金魚の9秒を下回る。」

おそらく聞いたことがある人も多いと思いますが、2000年の段階では「人間の集中力は12秒持続する」と言われていたので、この短期間で4秒も縮まった等々とにかく色々と話題になりました。

その後、この研究はマイクロソフトが実施したものではないとか、金魚の集中時間を裏づける情報源がないとか、信憑性を疑わせる指摘が続出し、今では「金魚神話」と呼ばれています。どうやらマーケティング目的で作られた数字のようですが、これだけ世間に広まれば、その目的は達せられたと言えるのかも知れません。

とはいえ、現代が集中しにくい環境にある、現代人の集中を持続する力が落ちた(むしろ不要になった?)というのは、やはり事実であろうと思います。

為末大さんと今井むつみさんによる著書『ことば、身体、学び「できるようになる」とはどういうことか』(扶桑社)を読んでいると、次のようなことが書かれていました。

為末大さん

「競技で役に立つ技術は大体単純な動きです。あまり変化のない単純な動きの繰り返しに対して、意識をそらさないようにし続ける力を鍛えておくことが大切です。」

「外部の刺激によって集中することを覚えてしまうと、外部からの派手な刺激がなければ、集中ができなくなります。自ら壁のなにげない一点を見つめるようなことがある程度できないと、筋肉の一部位に意識をむけて継続することはできません。」

今井むつみさん

「気になるのは、教科書が色つきになり、ビジュアル的にとてもきれいになって、この先はデジタル教科書なども出てきて、どんどんわかりやすくなっていくことでしょうか。わかりやすくすると、その分、自分で考えなくても見ればわかるようになってしまいます。」

「そうやって学んだものは、応用も利かなくなります。少し場面が変わると使えなくなるという落とし穴があるので、何でもわかりやすくすればいいわけではありません。」  同書の中でも語られていますが、外的刺激によって学ばされているような環境では、本当の意味で学ぶことができず、結局、自ら集中して、自ら得たものしか、身に付くことはないのだと言えそうです。

2024年2月

ご覧になった方も多いと思いますが(思いたいですが)、川越英隆さんとの対談動画を、MWT協会のYouTubeチャンネルにアップしました(全10回)。

川越さんは、プロ野球のオリックスバッファローズなどで投手として活躍された方で、引退後は、千葉ロッテマリーンズで投手コーチを務めていました。2022年の退団後、2023年~株式会社tsuzuki BASEさんが運営する野球スクール「Glowing Academy」で指導をしながら、「ウェルネストレーニング教室・横浜鶴見校」の開校に向けて準備を進めていたところ、2024年~福岡ソフトバンクホークスの4軍ピッチングコーチへの就任が決まりました(教室の開校は延期)。

2024年の福岡ソフトバンクホークスと言えば、協会の相談役・志賀一雅がメンタルトレーニングを担当してきた小久保裕紀さんが1軍の監督に就任され、更に、協会の顧問である倉野信次さんが投手コーチ兼ヘッドコーディネーターに就任されるなど、これはもう、会社としても応援するしかない状況です。

対談を収録したのは、コーチ就任が決まる前の2023年7月23日。横浜にある「Glowing Academy」の施設を訪問しましたが、私も中学・高校と野球部に所属していたため、自分の学生時代を思い出しながら、練習環境の変化を実感した次第です(詳しくは動画にて)。

また、対談の中でも話したことですが、現在は、あらゆる分野においてプロとアマチュアの情報格差がほぼなく、環境面でも情報面でも、すべての人に十分すぎるものが与えられている状況です。そのような中で独自性を発揮するのは難しいことだと思いますが、それに対する一つの回答として、複数分野の掛け合わせが考えられます。

この場合の分野は、ある程度レアなものが条件ですが、例えば、500人に1人(0.2%:東京都の小学校に1人くらい)だとレア度が高くなくても、そのような分野を2つ掛け合わせると2,500人に1人(0.04%=0.2%×0.2%)、3つ掛け合わせると12,500人に1人(0.008%=0.2%×0.2%×0.2%)になります。もちろん、分野そのものがレアでなくても、自分がレアになる=複数の分野で上位500人に入ることでも同じ確率を達成できます。

いずれにしても、ちょっと手を出しては止めるようなことを繰り返していると、何も身に付かない(レアになれない)ばかりか、有用な経験も得にくいでしょうから、まずは、じっくりと取り組める何かを見つけるのがよろしいのではないかという話でした。

2024年1月

明けましておめでとうございます。

2024年は、年明けから大きな災害や事故が続いているため、被害に遭われた方々へお見舞いを申し上げるとともに、これ以上は被害が拡大しないことと、1日も早い復旧を祈るばかりです。

このエッセイでは、今年も脳波とメンタルトレーニングを主に話題を提供して参ります。

脳波の観点から整理すると、メンタルトレーニングとは、10Hzを含めたミッドアルファ波の状態を作るメソッドと言うことが出来ます。もちろん、脳波はアナログの生体信号であるため、ミッドアルファ波が強くなれば、その周辺の周波数(アルファ波全体)も強くなりますが、あくまでも中心はミッドアルファ波にあるということです。よって、メンタルトレーニングは、「実力発揮」と「(自己暗示を伴う)イメージトレーニング」に有効と考えることが出来ます(この辺りの詳細は、メンタルウェルネストレーニング指導者資格認定講座の中で説明しています)。

一方、よくご質問をいただく7.8Hzを強める方法ですが、メンタルトレーニング単独では難しいだろうというのが個人的な見解です。また、7.8Hzを強めたいという意識が、むしろ7.8Hzへの変化を阻害するように思います。

では、何をすれば良いのか?

あくまでも私見として、その答えの一つは「瞑想」だと思います。

メンタルウェルネストレーニングの1級講座でも少し取り上げる内容ですが、瞑想の調心(心を整える)を通じて、智慧が湧くようになります。ここでの智慧とは、例えば、大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智の4つのことです。

大円鏡智:心は鏡のようなものであり、雑念、妄想、感情のような塵や埃を払えば、鏡=心がきれいになり、すべてのものを「ありのまま」捉えられるようになる。

平等性智:そうすると、物事を自分に都合よく見るのではなく、平等に見ることが出来るようになる。

妙観察智:そして、物事を精妙に観察できるようになる。

成所作智:その結果、為すべきことを成し遂げるための知恵が生まれる。

ここまでが、集中瞑想→観察瞑想(10Hz)。

また、智慧は、慈悲の心として具現化されると言われ、それが4つの慈悲の心=四無量心です。

慈:他者に対する思いやりの心。

悲:他者の悲しみや苦しみを感じ、取り除いてあげたいと思う心。

喜:他者の喜びを、ともに喜ぶ心。

捨:何事にも偏らず、平等・平静である心。

これが、慈悲と慈愛の瞑想(10Hz→7.8Hz)。MWT的には「よかった、ありがとう」ですね。

自己を管理する限りは10Hz(ミッドアルファ波)であり、それは決して悪いことではありませんが、仮に7.8Hzを目指すのであれば(“目指す”というのも矛盾を含む表現ですが)、その執着から離れる必要があるでしょう。

2024年1月~(株)脳力開発研究所の本社が、東京・目白に移転しました。JR山手線の目白駅から徒歩10分ほどの場所です。近くに来られた際は、ぜひお立ち寄りください。

本年もよろしくお願い申し上げます。

2023年12月

2023年も、多くの方が脳波測定の体験にお越しくださいました。グループ企業である(株)脳力開発研究所が開発・販売しているアルファテック7を使い、およそ1時間の中で、説明や質疑応答などをおこないます。ご興味がある方は↓よりお申し込みください。

https://nouhasokutei.jp/taiken.html

これまで、このエッセイの中でも、脳波を測ると分かることについて色々と紹介して来ましたが、ある分野のエキスパートと初心者(非エキスパート)では脳の使い方が異なるというのも、そのうちの一つです。例えば、同じ作業をしていても、エキスパートの方が圧倒的に速いというようなことは、皆様にも経験があると思います。では、圧倒的に速い=それだけ脳も激しく活動していると言えるのでしょうか?

エキスパートと初心者が同じことをしていて、ある程度の時間が経過した後、疲労を感じやすいのは、どちらでしょう?おそらく、初心者ではないでしょうか?疲労を感じやすいのは、脳波の周波数も電圧も高く、基本的には脳が激しく活動している時です。そして、ここには「意識的」な情報処理が関わると考えられています。

エキスパートと初心者では、同じ作業をするにしても、意識で処理する情報量が圧倒的に異なります。「意識下」で処理するエキスパート(豊富な経験に基づく長期記憶があるため)と、「意識」で処理する初心者(経験に基づく長期記憶がないため)の違いですが、当然のこととして、意識で処理する情報量が増えるほど多くのエネルギーを使うことになり、結果として、周波数も電圧も上がりやすく、疲労も感じやすくなります(スピードも落ちます)。

このような結果を示す事例は数多く存在しますが、私が計測したものの一つは、演奏時における、プロのミュージシャンと、その生徒の違いでした。プロの方は、ミッドアルファ波を中心に電圧は低め、つまり静かな状態でしたが、生徒は、ミッドアルファ波にファストアルファ波とベータ波が混ざる状態で電圧も高め、いかにも一生懸命演奏している状態を表していました。言うまでもなく、演奏そのものはプロの方が心地よかったわけですが。

これは、演奏に限らず、あらゆる作業に当てはまることであり、本番で能力を存分に発揮できない方は、このあたりの脳の使い方に課題があるのかも知れません。したがって、技術的な練習はもちろんのこと、その成果を最大限に発揮したいのであれば、脳波を指標に脳の使い方を練習することも対策の一つだと思います。そして、そのための方法を体系的に学べるプログラムが「メンタルウェルネストレーニング」です。

2023年11月

褒めるか方が良いのか?叱る方が良いのか?はたして、どちらが良いのか?は、おそらく多くの指導者が迷うところだろうと思います。そこで今回は、この問題を「平均への回帰」という観点から考えてみましょう。

まず、あなたは指導者として、誰かの教育を担当していると仮定します。その相手が、明らかに能力を発揮できず失敗した場合、叱ったり励ましたりしながら、次の機会では能力を発揮できるように対応することが多いはずです。一方、いつも以上の能力を発揮して成功した場合、褒めたり称えたり、あるいは一緒に喜んだりしながら、次の機会でも同じような結果を残せるように対応することが多いかも知れません。

その結果、次の機会で、前回失敗した人は、見事に挽回して通常以上の成績を残し、前回成功した人は、打って変わって能力を発揮できず失敗すれば、その成功もしくは失敗(の一部)は、自分の対応の影響だと感じるのではないでしょうか。

実際のところ、大きな失敗の後に成功、大きな成功の後に失敗という現象は、高い確率で起こり得ます。なぜなら、実力そのものが上がるか下がるかしない限り、予想以上の成績も以下の成績も単なる外れ値に過ぎず、ある程度の長い目で見れば、結果は必ず平均値に収束するからです。

しかしながら、ここで指導者は、(失敗した時に)叱るか励ますことは次回の成功に繋がりやすく、(成功した時に)褒めるか称えることは次回の失敗に繋がりやすいことを学習します。そこから、次回の成功率を高めようとすれば、叱咤もしくは激励が優先され、褒め称えることを避けるようになり、気が付けば、もっともっとと相手を追い込む指導者が誕生することになります。

ここで、実際の学習効果について説明しておくと、減点法(叱るなどの罰を与える)と加点法(褒めるなどの報酬を与える)を比較した場合、学習効果を早く成立させるのは減点法で、学習効果を長く定着させるのは加点法と言われています。

この辺りのことは、例えば学校部活動において、限られた在学期間の勝ち負けに価値を置けば叱ることが重視され、卒業後を含めた教育効果に価値を置けば褒めることが重視される。つまり、短期的な発想で指導するのか、長期的な発想で指導するのかという行動にも現れる内容です。 私個人は短期的な発想で指導する立場にいないこともあり、指導者にとって大事なのは、結果に対して一喜一憂することではなく、「平均への回帰」を頭に入れながら、実力と結果の関係を適切に把握して次の手を打つことだと考えています。よって、褒めるか?叱るか?の前に、まずは、よく観察することが大事というのが私の意見です。

2023年10月

脳波ニューロフィードバック装置「アルファテック7」は、脳波をリアルタイムでモニターしながら脳活動の自己制御を試みる「ニューロフィードバック」トレーニングにも使える装置です。なお、「ニューロフィードバック」のための装置は脳波計に限らず、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)が使用されることもあります。

また、計測された脳の活動パターンをもとに、どのような刺激が提示されたのかを推定する手法として「デコーディング」というものがあります。

今回は、この「デコーディング」と、fMRIによる「ニューロフィードバック」を組み合わせて(デコーデット・ニューロフィードバック:DecNef)、特定の脳活動パターンを生み出すように訓練した、ATR脳情報通信総合研究所の柴田和久研究員らによる実験を紹介しましょう。

この実験では、まず、色々な角度の縞模様を被験者に見てもらい、同時にfMRIデータを取得します。そのデータをデコーディングして、各々の縞模様に対する脳活動パターンを抽出しました。

続いて、色々な縞模様の中から、ある特定の縞模様を選び、その縞模様を見ている時の脳活動を被験者に再現してもらいますが、この時、被験者本人は、何に関わる脳活動を再現するのかも知らされないまま実験に参加したのだそうです。被験者に与えられるフィードバックは、(何だか分からないけど)正解に近い脳活動を再現できているかどうかの成績のみ。したがって、何が評価されているのかも分からない中、とにかく、成績が向上するように試行錯誤したというわけです。

被験者の視点に立つと、なかなかつかみどころがない気もしますが、しかしながら、この訓練を約10日間続け、脳活動パターンを示す成績が向上するようになると、特定の角度の縞模様を知覚する能力が向上しました。

当然ですが、この実験期間中、被験者は、特定の縞模様を繰り返し見たわけではありませんし、そもそも、イメージすらしていないでしょう。それにも関わらず、ある縞模様を、他の角度(傾き)の縞模様よりも上手に見分けられるようになったという結果でした。

さすがに、ここまで精緻な評価にもとづくニューロフィードバックトレーニングは、アルファテック7では出来ません。それでも、脳の使い方に関しては、アルファテック7の使用でも十分に評価できますし、脳の使い方をトレーニングするだけでも、新たな能力を身に付けられたという意味では興味深い実験結果だと思います。

2023年9月

今月は選択盲の実験に関する話から。

早速ですが、まず、被験者に2枚の顔写真を見せ、数秒以内に、どちらの顔が好みかを判断してもらいます。その後、写真を裏返して、選んだ方を被験者に渡し、なぜ、そちらを選んだのかを説明してもらいますが、この時、被験者は手渡された写真を表にして、写真の顔を見ながら理由を述べます。

この実験では、数回ごとにトリックが仕掛けられます。被験者に見せた写真の裏には別の写真が隠されていて、例えば、Aの写真を選んだのであれば、被験者に渡されるのはBの写真、Bの写真を選んだのであれば、渡されるのはAの写真というように、自分が選んだ写真とは逆の写真を渡されるのです。

この場合、被験者は、それが間違いであることに気が付くのでしょうか?

もちろん、気が付く人もいたようですが、それは全体の20~30%と言われていて、70~80%は間違いに気が付きません。そればかりではなく、自分が、その写真を(本当は選ばなかったのに)選んだ理由について、あたかも本当に選んだかのように説明を始めます。

さらに、そこで述べた理由に含まれる特性が、トリックがなかった、つまり、Aの写真を選んだのであれば、Aの写真を渡され、Bの写真を選んだのであれば、Bの写真を渡されるというような、正しい写真を渡される場合と一致していたのです。その判断基準が、本当に確固たるものであれば、選ばれなかった写真は、それと照らして劣っていたはずなのに。

この話を、ダニエル・カーネマンの「システム1」と「システム2」に当てはめれば、両者に関わる脳の働きが、実は、あまり関連していないことを示しているのかも知れません。ここから、例えば、「システム1」に関わる「バイアスのある信念」に対して、システム2に関わる「規範的・合理的説明」を与えて説得しようと試みても、もともと異なる脳の働きに訴えかけている以上、お互いが歩み寄ることは極めて難しいと言うことも出来るでしょう。

これは、寄り添い、共感、文脈依存型の指導(を求めるクライアント)と、論理や確率を重視した、規範的合理性に基づく指導(を求めるクライアント)という分類にも繋がりそうですし、あるいは、脳波との関連について検討するのも面白そうな気がします。

2023年8月

脳波を測りながら実践するメンタルトレーニングを「ニューロフィードバックトレーニング」とも呼ぶわけですが、メンタルトレーニングという手法(細かい説明は省きますが、ここでは狭義のメンタルトレーニング)には、効果が出やすい取り組み方、望ましい取り組み方があります。これまで、トレーニング中の脳波を数多く計測してきましたが、実際のところ、必ずしも理想的とは言えない状態が目立つのも事実で、その時、具体的に何が問題で、それに対して、どう対策を練れば良いかを伝えることがトレーナーの役割でもあります。

ちなみに、メンタルトレーニングを通じて目指すことは、緊張→リラックス、雑念→集中などの切り替えと、マインドセット(考え方)の反射形成が主で、例えば、自信、自尊心、自己肯定感、自己効力感などを、メンタルトレーニング単独で身に付けるのは困難であろうと思います。理由は、それらが自己の成功体験を通じて獲得されるものだからです。

ただし、それらに対してメンタルトレーニングで出来ることは何もないのかというと、そうではありません。成功体験を得るには行動が不可欠です。そして、行動を起こすために必要な主体的かつ積極的なメンタリティーは、トレーニングで強化することが出来ます。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」のようなもので、何もしなければ何も得られないわけですから、最初の一歩を踏み出す動機形成には大いに役立ちます。

さて、もともとこの文章は、最近の日本人アスリートの中で、その名を歴史に残すであろう2人の偉人、大谷翔平選手と井上尚弥選手の活躍を見た印象に基づいて書き始めました。大谷選手を見ていて特に感じられる、緩急のメリハリを利かせながらフラットな状態を保つ面は、メンタルトレーニングが得意とする部分であろうと思う一方、井上選手というか、格闘技としてのボクシングに求められるような、ファイトする場面で生み出される強靭さや爆発力の獲得は、メンタルトレーニングだけでは難しく、人生全体に及ぶ色々な経験から創発されるものであろうと思います。 スポーツに限らず、人生における「戦い」の場面で、複雑な感情を抱えながら勝負に挑み、苦しくとも最後まで諦めない強さ、ある種の理屈を超えた強さは、人としての総合力そのものです。そして、それは日々の経験を通じて培われるものであり、今日一日の過ごし方が関わるものでもあります。先ほどの2人を含め、世界を舞台に活躍する日本人の出現は、多くの人の行動やマインドセットを変え得るという意味でも素晴らしいことだと思います。

2023年7月

「現状維持バイアス」を「ホメオスタシス」と結び付けるのは、ちょっと拡大解釈しすぎでは?など、自己都合的な謎解釈を目にすることは日常的によくあることだと思いますが、その中でも頻繁に耳にする(つい最近も耳にした)、勘違いなのかなんなのか…という件について。

代表的なものは、1971年に米国の心理学者アルバート・メラビアンが提唱した「メラビアンの法則」でしょう。詳しく知りたい方は、ググるなりなんなりして頂きたいのですが、他者とのコミュニケーションにおける影響は

視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%。

視覚情報とは、見た目、しぐさ、表情、視線など

聴覚情報とは、声質、声量、口調、トーン、スピード、テンポなど

言語情報とは、言葉の内容や意味など

よって、言語情報より、非言語情報(視覚+聴覚)の影響が大きい、言い換えると、何を言うかは7%にすぎず、どう言うかが93%を占める、云々かんぬんと説明されることが多いように思います。

ちなみに、聴覚情報に関するエッセイを2022年1月に書いているので、ご興味があれば、そちらにも目を通してください。

話を戻して、非言語情報が重要ということには同意する半面、上記の解釈そのものは、本来の「メラビアンの法則」とは少し異なります。

もともとは、視覚情報、聴覚情報、言語情報が一致しない(矛盾する)状態で同時に提示された場合、受け手側の印象として最優先されるのは視覚情報であり、聴覚情報、言語情報の順で影響力が低下するというもの。例えば、非言語情報として嫌悪感をあらわにしながら言語情報として好意を伝えるとか、無表情かつ抑揚がない話し方で楽しいという言葉を発するとかの場合、他者が、好意や楽しいを受け取る可能性は低い…と、まぁそうだよねという感じだと思いますが。

したがって、この法則が当てはまるのは、かなり特殊かつ限定された状況における影響の話であり、ここから、言語情報の優先順位が低いとか、言葉選びの重要度が低いなどの解釈を導けるわけではありません。 メンタルや脳波に関する解釈についても、根拠不明な、個人の語りにすぎないようなものもよくあるので、わが身を振り返りながら、出来る限り具体的な根拠に基づく解釈を伝えなくてはいけないという自分への戒めとして受け止めるようにしています。

2023年6月

脳の働きを単純化すると、信号の(入力→処理→出力)。したがって、頭の回転が速いとは、「入力→出力」までの時間が短いこと、記憶力が良いとは、正確に「(入力→)出力」できることとも言えるでしょう。

そうすると、「入力→出力」までを短時間で繰り返すような作業は、必然的に頭の回転を速め、記憶力(出力≒思い出す力)を高めるトレーニングにもなるので、ただ見たり聞いたりするだけではなく、行動(出力)に繋げるところまでが重要というわけです(それが思い出すということです)。

ですから、動画や音声を倍速視聴することは、一種のトレーニング的な意味合いを持つため、昔からよく使われる手法でもあります。個人的には、タイパ的なことにあまり拘りたくもないので、必要以上に採用したい視聴方法ではないですけど。

さて、ここからは(珍しく)商品宣伝です。

メテミミ感覚統合トレーニングセットという教材があります。

目(メ)手(テ)耳(ミミ)が名前の由来ですが、高速で再生される数字を聞きながら、指定された形式に合わせて解答用紙に数字を記入する。言い換えると、音声情報を聴き取り、視覚情報に変換して、身体(手)を通じて素早く表現する(書く)。たったこれだけの内容ですが、情報処理能力や記憶力を高めることに役立ちます。

負荷の種類(再生される音の速度や桁数など)は、実践する人の目的やレベルに合わせて変えるわけですが、ある一定の時間、集中力を持続できるかどうかもカギになります。

「簡単そうじゃん」と思われたかも知れませんが、聞こえてきた数字を書くだけと考えると、確かに何も難しいことはなさそうですよね。でも実際には、思いのほか苦労する人が多い取り組みで、記憶(入力)まではしたつもりが、いざ書こうとすると分からなくなるとか、これぞ、出力まで繋げられない典型例です。

人によりけりとはいえ、楽しいと感じる人も多い教材ですし、能力を高めたい人はもちろん、能力を維持したい人も実践する価値があると思います。よろしければトレーニングの一環として取り入れてください。